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映画・演劇のレビュー

『洲崎パラダイス 赤信号』

2024-07-26 05:08:00 | 映画

川島雄三監督の代表作として世間では認識されているこの作品、Amazonでの配信が終了するらしいので見ることにした。日活映画のたくさんの作品がこの数日で配信終了というサインが出ているけど、欲張っても仕方ないから、まず気になっていた未見のこの傑作をチョイスする。

 
冒頭のシーンから圧倒される。サイレンの音、ざわめき。クレジットバックには洲崎の町中、店先をカメラがどんどん横移動して人々の生活を捉えられていく。その賑わい、躍動感。クレジットの文字が邪魔してせっかくの光景が十分には見られない。それがもったいなくて。
 
本編の冒頭、新珠三千代と三橋達也のふたりが橋の上に佇んでいる。場所は浅草。行く宛もないようだ。お金も仕事も住む場所もない。死ぬしかないくらいに追い詰められている。この橋から身投げするか? いや新珠はやって来たバスに飛び乗る。三橋は追いかける。ふたりは洲崎で降りる。ここまででまだ5分くらいか。導入部から一気に作品世界に引き込まれていく。
 
洲崎パラダイスの入り口にある小さな飲み屋で働くことになる。映画はたった81分。別段何事も無く終わった。ラスト再び同じ場所に逆戻りする。売春防止法が適応される直前の時代。僕が生まれる直前でもある。昭和31年くらいのことか。夏がやってくる前の梅雨どき。
 
もう戦後ではない、と言われた時代。だけどまだ明らかに戦争を引き摺る。リアル過ぎる風景がドキュメントされる。当然だけど、生々しい。セットではない。当時の光景そのままがフィルムに留められる。風俗、風景の記録としても貴重だけど、不安しかない現実がふたり連れを通して描かれる。轟夕起子演じる飲み屋の女将さんのドラマがサイドストーリーとしてさりげなく重いものを突きつける。橋向こうの女と出奔して10年いなかった夫が戻ってくる。幸せな時間が(一瞬だけど)帰ってきた。これは風俗のスケッチの域を出ないように見せかけて、確かな歴史の一側面を描き切る傑作映画だ。
 
 

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