
第1話を読んだ時、これはまずいなと思ったけど、仕方がないからさらに読み進めることにした。何がまずいかというと、コロナを背景にして心を病んだ人たちがカウンセリングを受けることで立ち直る姿を描く短編連作という「いかにも」のパターンが鼻についたことだ。そんなありきたりの展開にはウンザリさせられる、と思ったが、さらに読み進めるうちに、これは見事なパターン小説だと感心することに。2話のドンデン返しは見事だった。ただ、3.4話はやはり少し鼻についた。これは微妙なバランスの上で成立している。
お話は全5話からなる。そこには2020年春から秋にかけての時間が描かれる。コロナ元年の狂騒。誰もが疑心暗鬼になっていた頃。迷走を続ける政府の政策はあの安倍のアベノマスクやGO TO トラベル(トラブル?)にイートへと、今考えると呆れるばかりの対応で、迷走。緊急事態宣言下まさかの事態の連鎖。
これには『2020こころの相談室』というサブタイトルが付いてあり市役所に仮設されたその場所が舞台だ。ストレートで的を射ている。
そんななかでの5人のケースが提示される。10代の女の子(求人がなく、就職先がないい高3生)から始まり20代男性(婚約破棄され結婚が破談に)30代女性(出産、育児ノイローゼ)40代(ホームレス、実はスリ)に繋がっていく。最後は再び10代(オンライン講義の大学生男子、実は浪人生)の話に。いずれもコロナさえなければ、というお話。さまざまなコロナ禍アイテムを駆使してのコロナあるあるが展開する。(お話はあざといくらいにきちんと繋がっていき最初と符号するラストを迎える。)
それをカウンセラーのコンビ(チーフの30代女性と新米の60代男性)が見事に裁いていく。その対応には唸らされる。とてもよく出来たハートウォーミングだ。謎解きの部分も上手い。ただ幾分やり過ぎの感も。
あの頃を冷静になって見つめていくことで見えるもの。それがここには描かれていく。これは2023年の今だから可能な作品である。そしてこれからこんなタイプの小説がどんどん出てくることだろう。その先駆けになりそうな一作だ。あの時期(しばらくしたら時代と呼ばれるだろう)を再検証することで見えるもの。それがこの先きっと大事なものになるのだろう。だから改めてこれはそんな作品の先陣を切る一作だと言おう。