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映画・演劇のレビュー

空組『Wish Land』

2016-03-30 22:14:51 | 演劇

 

これはなんだぁ、思わず、のけ反るような芝居だ。近年稀にみる珍種。びっくりしゃっくり。こんな舐めた芝居を見るのは久しぶりのことだ。どうなるのか、予想もつかない。というか、オレは何を見ているのか、と自分の目を疑う。これは芝居だと言えるのか。悪夢のような2時間だった。

そのうち、ちゃんとしたお話になる、と信じて2時間10分耐えた。周囲の人たちは、楽しそうにしている。僕だけ異次元ポケットに入っている。悪いのは僕だ。こんなところにいてごめんなさい。そんな気分で居心地の悪い時間を過ごす。新興宗教の集会に部外者が迷い込んだ気分。ふつうないわぁ、と思う。

 

誤解のないようにしてもらいたい。僕はこれからこの芝居を扱き下ろすのではない。この体験を伝えたいのだ。貴重な時間だったと認識したい。それくらいにカルチャーショックを受けた。自由度の高い作り方をしている。アドリブ満載で、一発芸を披露するコーナーが随所に用意される。これは宴会なのか、芝居なのか、よくわからない。お話の流れを何度となく断ち切る。

 

舞台上には20人近いキャストがほぼ出ずっぱりになっているから、暑苦しい。かわいい女の子たちなので、まだいいけど、それでもこれでは緩急がなくなる。ダラダラした印象を与える。芝居には緊張感がない。群像劇なのだが、キャラクターの個性がない。ドラマには危機感がない。

 

ここはどこなのか、なぜ彼女たちはここにやってきたのか。ここの心地よさに溺れていていいのか。そんな不安が描かれないのは解せない。まるで何の疑いもないまま、ここに安住している。もちろん、危機感が描かれないわけではない。しかし、遊びに埋もれて、なおざりになる。どうしてこんなふうにバラエティショーのような作り方をしたのだろうか。

 

今がただ、楽しかったらいいじゃない。そんな彼女たちの声が聞こえてくるようだ。それが、実は将来に対する不安に裏打ちされている、という事実が伝わりきれないから、ラストで現実に戻り、現実を受け入れ、生きようとする覚悟も描ききれない。

 

これを見ながら、甘いんだよ、なんて思うわけではない。こんなふうに世界を受け止めることもあるのか、と驚く。作、演出の空山知永さんは、きっと確信犯だ。だが、作品は少しバランスを欠いているから、彼女の考えが伝わりきれないのだろう。決して安易で甘いだけの芝居ではない。ここからしっかりと彼女たちひとりひとりの痛みが伝わってきたなら、別の意味でショッキングな作品になれたかもしれない。そう思うと、いささか残念だ。これは凄い芝居になる可能性はなる。だが、今のままでは、そうじゃない。


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