習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ミツコ感覚』

2013-07-16 21:58:38 | 映画
 これは嫌な映画だ。この後味の悪さは普通じゃない。しかも、こんなにも嫌な映画をここまで確信犯的に作る才能って、かなり凄い。監督はソフトバンクのCM(犬のお父さんとその家族のやつ)を作った人らしい。あのCMの不条理も半端ではないが、この映画の気味悪さも大概ではないか。

 ラスト1分を切っても先が読めないという展開は凄いとしか言いようがない。オチがないわけではない。ギリギリまでどこに話が向かうのか、それがわからないのだ。父親と義母が訪ねてくるシーンで断ち切るエンディングは鮮やかすぎる。そういう意味でこれは内田けんじに似ているかもしれない。

 気味の悪い奴らばかりが出てくる。それがなんだかとても嘘臭くて胡散臭い。あのストーカーの男。あそこまでよくやる。付き合う主人公の姉妹も大概だが、それでもあそこまでしつこくされたら怖い。たとえ本当に彼女(主人公のミツコ)のことが好きだとしてもあれは異常だ。つけ込む男もつけ込まれる女も、ちょっと変だ。家にまでやってこられたら警察を呼ぶだろうし、犯罪だ。なのに、しない。

 姉の不倫相手も変だ。どうしてあんな男と付き合うのか。彼女もなんだかつけ込まれている。妻がいるのに、職場の女性と(ミツコの姉)付き合い、昼間からホテルに行く。職場では公然の秘密。

 ストーカー、不倫。この2つのネタで、話を引っ張っていく。4人の話。ありとあらゆるケースをそこに投入するのではなく、この4人を掘り下げていくうちにいろんなものが見えてくる。でも、ストーカーなんかと、付き合うつもりはないし、不倫男なんかを信じても意味はない。ミツコはそれでも付きまとうストーカーを袖にはできない。姉も、不倫男とずるずる関係する。あげくは妻が家にやってきて、自殺するし。ストーカーや不倫男という加害者だけでなく、被害者側のはずの姉妹も以上なのだ。誰もが自分の気持ちを言葉にはしない。だから、いろんなことが、よくわからないままだ。さらにはストーカー男の姉がまた気持ちが悪い。しかも、彼らは姉弟ではないようなのだ。(一緒にラブホに行っている!)

 軽いタッチなのに、軽く見せるのではなく、とても重い。彼女たち、彼らの本音がどこにあるのか、なかなか見えてこない。そのもどかしさ、というよりも、そのつかみどころのなさ。それがこの作品の気味の悪さであり、魅力なのかもしれない。人間の心の中のドロドロしたものが、彼らの行動やしぐさから、立ち上る。シュールな映画なんていういい方だけでは安心できない。

 ミツコが何をしたくて、どうしようとしているのか。それすらも、よくは、わからない。恋人が死んでいたこと。そのことを自分だけが知らなかったこと。棄てられたと思っていた。姉への不満。家を出て行った父親への不信感。カメラに打ち込むというのもなんだか違う。しかも、あんなストーカー男の写真をコンクールに出して入賞して、それで評価されてもそんなの自分が求めていたものではない。ぐちゃぐちゃなのだ。だから自分に腹が立つ。でも、どうしようもない。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『自縄自縛の私』 | トップ | 『100回泣くこと』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。