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映画・演劇のレビュー

『100回泣くこと』

2013-07-16 23:13:13 | 映画
 100回泣くわけではないから、このタイトルは大袈裟なのだが、そういう極端なところが、中村航作品の魅力で、この話だってやりすぎでそこにはリアリティーはない。でも、嘘臭いか、と言われると(確かに嘘臭いけど)気持はわからないでもない。こういう気持ちは誰にも確かにあると思う。ストーリーとしてはリアルに程遠いけど、自分を悲劇のヒロイン、主人公とするのならば、わかる。その渦中にある人は客観的に周囲が見えない。だから他人からすればバカバカしいことでも、当事者にとっては切実なのだ。

 現実から逃げだしたくて、事故に遭い、考えたくはない記憶を忘れる。そんな都合のいいバカな話がここには描かれる。そして、そんなバカ男をずっと愛し続ける女がいる。彼女は、彼が自分のことを思い出すまで、自分からは何も言わず、もう一度はじめから彼と出会い、付き合う。がんで余命いくばくもないのに。そんなご都合主義のお話である。恋愛メロドラマの定番のようなベタな話だ。大体、きっかけも彼が彼女の病気を知って、そこからの逃避なのだから。

 こういう話を本気で映画化する廣木隆一監督は偉い。何でもありの人である。今回も普通なら呆れてまともに取り組めないような企画だ。でも、ちゃんとこのお話の本質を捉えて、なめてかかるのではなく、丁寧に主人公である2人に寄り添い、そうすることで、絶対納得させられないようなこんな話にも命を吹き込む。彼にはそんなことが出来る。

 ここで大切なのは、リアリティーではなく、彼らの心情である。誰かをひたむきに思う心と弱い自分と向き合うことなく逃げる心。そんな2人をそのまま描き、そんな恋愛を成立させてしまうこと。気丈な女とダメ男という『夫婦善哉』の時代から定番のテーマを現代に再生させた。

 主人公を演じたのは、関ジャニ∞の大倉忠義と桐谷美玲。2人がとてもいいから、このとんでもない話に最後まで付き合える。しかも監督はちゃんと緊張感を持続する。バカバカしい、で終わりにすることも出来た。だが、そうはさせないのが廣木監督である。彼でなくてはこの作品は成立しなかっただろう。



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