
川本さんのエッセイ集である。昭和をいろんな局面から描く。あの頃を懐かしむ。記憶に残るさまざまなこと、もの、ひと。
あの頃の『暮らし』、『女性たち』、『青春』、『おしゃれ』、『楽しみ』。さらには『子どもの遊びと学校』と続いて、最後は『食の風景』に至る。7章からなる。ここで語られる昭和は関東大震災の大正12年から昭和20年8.15敗戦を経て、東京オリンピックの39年までを指す。川本三郎さんはこの後日本は大きく変わっていくと言う。
僕は昭和34年生まれだから、ぎりぎり川本さんの語る昭和を知っている世代だろう。ここに描かれるものがほとんどわかる。まだ幼い頃に確かにあったもの。だけど徐々になくなっていったものだ。川本さんは映画や小説を手掛かりにしてそれを丹念に描き取る。自分の記憶の中の出来事ではなく、映画や小説の風景を切り取る。
個人的な感傷ではなく、誰もが抱いている、抱いていた光景を再現していく。この国が生きた昭和をそこに見る。
巻末の索引には400人以上の人たちが記載されており、作品索引にも300本以上の映画や小説のタイトルが並ぶ。膨大な作品の記憶。しかも細部まで丁寧に書かれている。さすが、川本さん。しかも本文では同じ作品の引用が何度も繰り返される。好きな作品はさまざまな場面に再登場するのも微笑ましい。川本さん成瀬好きだなあ,って。楽しい。
これは仕方ないけど、スキーのところにはやはり原田知世の『私をスキーに連れてって』を入れて欲しかった。もちろん39年までルールには違反するけど。一応ギリギリ昭和だと思うし。ミシンの話には三島有紀子監督の『繕い裁つ人』(とてもいい映画です!)なんて2015年作品なのに登場するのに。