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映画・演劇のレビュー

天悟『川面の果て うたかたの花』

2007-10-04 21:19:28 | 演劇
 久しぶりに劇団天悟を見ることになった。今回のフライヤーは、いつものタッチとは趣を変えて、なんだか少し可愛らしい。「隅田川、ほとり。僕は毎日に夢中だった。」という左端に書かれたコピーにも心惹かれた。川べりの町並みを捉えた可愛らしいイラストがいい。今までと少し違う芝居を見せてくれるかも、なんて思い、劇場に足を運ぶ。

 派手な立ち回りではなく、江戸の庶民の哀歓が愛しく感じられるように描いてあればいいな、と期待した。だけど、しばらく見て、あぁこれは駄目だと思った。芝居の中に描かれる人たちがとてもここで生きてるようには見えない。なんだか当たり障りのない人情劇を見せられているようで、辛かった。

 江戸の町を舞台に、庶民の生き様を丁寧に掬い取っていくことで、見えてくるものが描けたなら、これはこれで愛しい芝居になったのかもしれない。なのに、表層的なストーリーをなぞって行くだけで、そこには彼らの日々の営みなんかまるで見えてこないから、どこにでもありそうなパターン通りの退屈なストーリーを見せられるだけで、なんだかつまらない。

 火事で最愛の妻を亡くし、それ以来絵筆が握れなくなった絵師とか、薄倖の後家を好きになり、大事な火消しとしての仕事を失う男とか、家業の浮世絵の版元を継ぐのが嫌で、花火職人になろうとする男とか、なんだか狭い世界にいかにもなお話を型通りに見せていく。そこには、一人ひとりの生きざまが、あるはずなのに、ただの紋切り型の中に閉じ込められインパクトに欠ける。

 これなら視点を一つに定め、版元のどら息子の成長物語として、全体を構成すればよかった。彼の妹(養子として引き取った娘なので、血の繋がりはない)への淡い恋心とか、けっこうドラマは用意されてあるのだから、彼の目からきちんと世界を見つめたなら面白くなったかもしれない。だいたいコピーを見た時には、そんな話になりそうだと思わされたのに、どうしてこうなってしまったのだろう。企画自体の狙いと台本が乖離してしまったのだろうなぁ。

 火消したちを中心としたダンスシーンとか、火事の場面での右往左往を描く群衆シーンにしても、派手な場面はなかなか上手く見せてくれているのだから、肝心のドラマ部分をもっとしっかり組み立てたなら、もう少し面白い芝居に出来たはずだ。狙いは悪くないだけに残念だった。

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