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映画・演劇のレビュー

『ゼロタウン 始まりの地』

2014-01-02 10:59:42 | 映画
イスラエル兵とパレスチナの少年の逃避行が描かれる。1982年、レバノン戦争下のベイルート。故郷を追われ収容所で暮らす少年。爆撃で父を失う。爆撃機が墜落して捕虜となったイスラエル兵。2人はお互いの目的のため国境を目指す。

 最初は反目しながらも徐々に心を通い合わせるというのはいつものこの手の映画のパターンなのだが、そこに到るまでの状況が描かれる部分が衝撃的だ。当時のレバノンの状況がわからないまま、観客である僕たちはこの過酷な現実に放り込まれる。町で物売りをする冒頭。収容所での生活。子供たちの日常。そんな描写の数々にドキドキさせられる。

 知識があまりないから、余計に衝撃的なのだろうが、後半は国境を超え世代を超えた2人の友情物語になっていく。この落とし所は単純。レバノン戦争や、イスラエルとパレスチナの問題については、それ以上踏み込んでこないし、政治的な映画ではない。廃墟になった遊園地で過ごす時間や、父の暮らしていた村にたどりつくシーンはセンチメンタルで、胸に沁みる。

 ただ言えることは、大人の事情(というか、国際的な事情なのだが、)そんなこんななんか関係なく、人は生きているという事実だ。自分が住んでいた場所を追われて難民キャンプで生活を強いられ、故郷に帰ることも出来ない。故郷はイスラエルに奪われてしまい、彼らが暮らした村は廃墟になっている。なんだ、それは、と思う。そこには生活があった。なのに、その生活を他人の事情で奪われ、家族も仲間も失われる。幼い少年にとって、というか、誰にとってもこんな理不尽な話はない。

 少年はイスラエル兵を捕虜にして、故郷に戻り、父の願いであるオリーブの木を庭に植える。そんなことをしても何の解決にもならないことはわかっている。命を賭けるようなことではない。だが、その旅が彼の始まりである。そこは彼の始まりの地であり、わけのわからない戦争によって、平和だった暮らしは損なわれた。空爆で父も死に祖父とふたりになった。この後、彼らに平和な暮らしが訪れるはずもない。少年はPLOの軍事訓練なんかに未来を託すほどノーテンキではなかった。

 では、彼の逃避行はなんだったのか。オリーブの木を植えること。そこに未来を託す。そんな夢物語を信じるしかない。この後、彼は再び難民キャンプに戻される。イスラエル軍の保護によってしばらくな間は快適な時間を過ごすけど、そんなことが目的ではないことは明らかだ。彼が連れ帰ることになった兵士は再び、少年の暮らすキャンプを爆撃するかもしれない。彼は少年を殺すことになる可能性は充分にある。では、彼らの旅は何だったのか。この映画が語ることはそこだ。

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