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映画・演劇のレビュー

ヤマshowとサリngROCK『マリリンの月』

2009-01-25 16:51:00 | 演劇
 7年間ひきこもり続けた男が部屋を出て行く。この7年間世界と交通を絶ってこの部屋から出ないで過ごしてきた。その間に家の中では様々な事件があった。だが、彼は何も知らない。その日、マリリンと名付けたサボテンに牛乳をやるために、彼は部屋から足を一歩踏み出す。

 山田将之さんによる一人芝居。作、演出はサリngROCK。彼女が3年前に自ら自作自演で作った芝居の再演。いつもの突劇金魚とは違ってとてもおとなしい芝居になっている。もちろんセットもない。簡素な空間に山田さんがひとり佇む。彼の独白によって話は綴られる。昨年の『王様ニキビ』もひきこもりの話だったが、サリngROCKはいつもこういうコミュニケーション不全を作品で取り扱う。

 それをおもいっきり派手なデザインで見せていくからポップで明るい作品のように見えるのだが、正直言うとその作品世界はいつも暗い。まぁ、そんなことを僕がわざわざ言わなくても彼女の作品を見れば一目瞭然なのだが、この中篇芝居を見ると、いつものパッケージングもないままの素の彼女が出ていて、痛ましい。

 家の中を探検する。台所までの大冒険が描かれる。ドアを開けて隣の弟の部屋を覗き(埃が溜まっていることに疑念を抱く)、階段を一歩ずつ下りていく。そんな行為のひとつひとつがドキドキとして描かれる。なんでもないことのはずなのに、彼には大変なことで、そんな彼の気持ちが痛いほど伝わってくる。弟の部屋の謎、おばあちゃんの部屋には仏壇、そして台所での母親との再会。

 この7年間の出来事。弟の家出。祖母の死。両親の離婚。すべて知らなかった。ただマリリンというサボテンを育てて、部屋から外を歩く人たちの姿を覗き見し、彼らを観察し続けたこと。それだけで精一杯だったのだ。だが、彼の中では止まっていた時間でも周囲の状況は刻々と変化していた。その事実を一瞬で受け止める。

 芝居の中では、何が彼をスポイルしたのか、なんてことは一切語られない。ただ、彼は心を閉ざした。それだけのことだ。

 ラストの踊り狂う母の姿を目撃する場面が衝撃的だ。それまでの抑えてきたものが一気に爆発する。感情が溢れ出す。モノトーンを突き破る祝祭の瞬間。

 とてもすがすがしい芝居に仕上がった。これはサリngROCKが自らの原点に挑む会心の1作だ。40分の至福の時間を満喫する。

 

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