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映画・演劇のレビュー

『風が強く吹いている』②

2006-12-28 16:19:01 | その他
 ようやく読み終わった。と、ほぼ同時に今年のクラブ活動が終了した。24、26日の2日間に亘る今年最後の試合が終わり、一応今日から冬季休業に入る。最後の試合は惨敗だった。この日に向けて期末考査後の短時間でやれる限りの調整をして、ベストコンディションで大会に臨んだはずなのに、ほんの少しのミスから、崩れて負けてしまった。ずっとクラブしてきて、こんなに悔しい思いをしたのは久し振りのことだ。それくらいに僕自身のモチベーションも高かったし、今までで一番いい状態で試合に入れたと思ったのに、もう少し神様は僕たちに味方してくれてもいいじゃないか、というくらいに惜しい試合だった。

 『風が強く吹いている』の寛政大の10人が箱根の2日を走るのと完全にシンクロして今回の試合が入ったのでこの小説からモチベーションを貰ったし、この小説に普通以上に感情移入したのかもしれない。

 読みながら異常なくらいに興奮していた。ハイジとカケルを中心にした10人のチームメイトが襷をリレーしていく姿が目に浮かぶようだった。

 こんなに苦しいのになんで走るのか、という根源的な問いかけに対する答えをこの小説は示してくれる。小説が終わった後に、さらにエピローグが付いているのも嬉しい。彼らの時間はあの箱根駅伝の2日間で終わったわけではない、ということを作者はきちんと見せてくれる。この大長編のラストにふさわしい追加事項だと思う。

 彼らが彼方まで一緒に走っていこうとする、そんな姿が描かれる。500ページのうちのラスト200ページが駅伝当日の描写に費やされている。順に10人が襷を手渡す。その中で、彼らのそれぞれの想い、みんなの気持ち、そして今、この舞台を走ることの意味が語られていく。読んでいて何度も泣いてしまった。声を上げて泣いてしまったことすらある。

 ただ走るだけなのに、どうしてこんなに胸が熱くなるのだろうか。スポーツの醍醐味がここには満ち溢れている。体が反応していく。考える前に体が動いてしまうことの快感。勝ち負けを超えたものがそこにはある。それは、ランナーズハイを超えた「ゾーン」に到るカケルの姿を描く部分に集約される。もっと、もっとと遠くに行きたい。見た事もない風景を見に行くために、知らない人が見たらばかげた行為かもしれないが、彼らは走り続ける。その姿が美しい。

 こんなにも泣いたのは『あしたのジョー』のラスト、丈が燃え尽きる姿を見た時以来だ。ハイジがみんなに言った「頂上を見せてあげる」という言葉がラストシーンの「頂上が見えたかい?」という言葉に美しく呼応する。

 4月から8ヶ月間の苦しくて、楽しかった日々のすべてがこの2日間に凝縮される。こういう興奮を待ち望んでたのだ。勝ったって、負けたって、それは終わりではない。次に向けてのスタートでしかない。しかし、それまでの努力と、終わった瞬間の快感は何者にも変えがたい魅力だ。

 浜本正機監督『駅伝』という映画がある。田中麗奈主演の佳作である。あれも泣ける。襷をリレーしていく姿って、それだけでもなんか胸が痛くなる。




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