マニエリスム期にイタリアで活躍したアーニョロ・ディ・コジモ(1503-1572)、通称ブロンズィーノの「愛の勝利の寓意 ‐ 愛のアレゴリー」(上)が今回の絵。
相当に好色だったらしいフランス国王フランソワ1世、イタリア風文化や壮麗な雰囲気に憧れ、紋章の象徴的意匠や難解な寓意表現を好んだとされている。
そんな国王に贈呈するため描かれたこの絵は、それゆえに謎解きを意図したものとなり、神話や象徴的表現のための仕掛けが随所に組み込まれ、聊か淫らに見える姿態で抱擁する構図とも相俟って、うってつけの贈り物であっただろうとされる。
では、その仕掛けを見てみよう。
中央でしどけなく抱擁するのはヴィーナスとエロス(キューピッド)。
前回のルーベンス(1577-1640/フランドル/バロック)の、「パリスの審判」を思い出して欲しい。
この女性がパリスに与えられた黄金の林檎や従う鳩、エロスの矢を取り出していることから、『愛と美の女神ヴィーナス』であることが判る。
樹木などの精とされ官能的なニンフと半獣半人の姿で快楽を好むサテュロス。
その象徴とも取れるふたつの仮面がふたりを見詰めているが、愛と快楽に潜む『偽り』(下/上左)を示すとされている。
向って右、薔薇の花を投げつけようとしている子供は『愚かな快楽』(下/上右)を表し、その後ろで愛らしい顔に反して醜い身体を持った『欺瞞』(下/中左)が、片方の手で尾にある毒針を隠しながらもう片方で甘い蜜蜂の巣を差し出している。
ふたりの左手、恋に破れ狂ったかのような形相で眼を見開き、絶句するのは『嫉妬』(下/中右)。
最近では、新大陸からもたらされ大流行した梅毒の擬人像ともされているらしい。
上部に目を移せば、左にはここで行われている全ての行動を、白日のもとに晒す『真理』(下/下左)が。
ただ、記憶するための肉体的機能が描かれていないことから『忘却』ともされ、すべてに鮮やかな青のヴェールを引こうとしている。
その右で、右肩の上に砂時計を乗せている『時の翁』(下/下右)が、そのヴェールを遮っている。
この絵を前にちんぷんかんぷん、何が何だかさっぱり、首を傾げるペトロとカタリナ
。
それもそのはず、「ヴィーナスの勝利」とも呼ばれるこの絵、“ 快楽が支配し欺瞞が扇動する偽り、不貞の愛と苦悩に満ちた結末が明かされている ” とされ、描かれるアレゴリー・寓意の解釈が極めて難解で、これまで幾度も論争が繰り返されたというミステリアスな絵なンだって。
好き者フランソワ1世さん、画家が仕掛けた謎、果たして解くことができたんでしょうかね? それとも、淫らな姿態を眺めて脂(やに)下がっていただけかな?
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.794
※ ロンドン・ナショナル・ギャラリーの旅(11)へは(コチラ)から入れます。
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