バロック期を代表する画家ピーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640/フランドル)の二回目。
その彼の今回の絵は、「パリスの審判」(上)。
ギリシャ神話の海の女神テティスと英雄ペレウスの結婚を祝う宴席には全ての神が招かれたが、不和と争いの女神エリスだけは招かれなかった。
エリスは怒って宴席に乗り込み、『最も美しい女神にあたえる』と、神の食べ物、不死の源ともされる黄金の林檎を投げ入れた。
このゴールデン・デリシャス、じゃなかった黄金の林檎をめぐって、「私しかいないじゃない!」と手を上げた女神たちの物語。
ギリシャ神話で最高神とされるゼウスは、正妻で最高位の女神ヘラ、知恵と戦争の女神アテナ、愛と美の女神アフロディテの中から最も美しい女神を選定するよう、神々の使者メルクリウスを介添に、トロイア王国の王子で羊飼いのパリスに命じる。
選ばれたい一心、アトリビュートの孔雀を連れたヘラ(下/上左)は『広大な領土』を、武具を背にしたアテナ(下/上右)は『輝かしい戦勝』を、愛を示すエロス = キューピッドを従えたアフロディテ(下/下左)は『人間界における最高の美女』を、「選んでくれればあげちゃう」と、三神三様?にパリスに約束をする。
パリスが選んだのは誰って?
勿論、ご褒美に吊られて女神アフロディテ、ローマ神話ではヴィーナス。
後先も考えずパリス君、「ごちそうさ~ん!」と言ったかどうかは判らないが、美女の誉れ高いスパルタ国の王妃ヘレネを連れ去ってしまう。
怒ったのは妻を攫われた国王メネラーオス、黙って見逃せば男の沽券に関ると、パリスのトロイア王国と戦争をおっ始める。
トロイの木馬で知られ、神々までを二分させた神話上の戦争、トロイア戦争である。
なるほど、この絵の背景には、復讐の女神アレクト(下/下右)の姿が描き込まれていて、この物語の行く末を暗示している。
岩に腰掛け黄金の林檎を見せるパリスとメルクリウス。
ちなみに、メルクリウス、英語読みでマーキュリーは、ローマ神話に登場する12人の最高神のひとりで商人や旅人の守護神、牧羊神にして豊饒神でもあったとされ、なるほど背後に羊が描かれている。
話はそれたが、そのふたりに媚び、艶然とポーズする美しき女神たち。
美しいと言われたい女性の心理、神々の世界であろうとも、何時の時代であろうとも、永遠に変わらないね、と言うことかな?
と言うことで、ルーベンス描く裸婦像の大きな特徴である、柔らかく膨よかな肉体表現と輝く肌の質感は、この絵においても如何なく発揮されているのである。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.793
※ ロンドン・ナショナル・ギャラリーの旅(10)へは(コチラ)から入れます。
アテナの後ろの武具に女性の顔があるように見えるのは気のせいですか?
絵も書も音楽も見事に限られた空間に表現され、才能のある方は素晴らしいなと思います。後世でペトロさんのようにちゃんと理解して観て下されば作者も嬉しいのでは...と思います。
SAKURA[E:cherryblossom]
書こうとも思いましたが、字数が多くなるのでやめたのですが、アテナ、ローマ神話でミネルヴァの後ろの武具、盾でしょうか。に描かれているのはギリシャ神話に登場する怪物、「メドゥーサ」だと思います
自分の髪はアテナの髪より美しい、と自慢したメドゥーサはアテナの怒りを買い、美貌は身の毛のよだつような醜さに変えられ、讃えられるほどの美しい髪ですら、一本一本を蛇に変えられてしまったそうですよ
ルーベンス、そのことをアテナのアトリビュートの武具にディテールとして描き込む遊び心が凄いですね
また、処女の誓いを立てていたアテナ、心ならずも下半身が蛇のエリクトニオスを産んでいて、蛇に係わる逸話が多いようです
ところで、ペトロ[E:key]とカタリナ[E:libra]、ウフィッツイ美術館でカラヴァッジョの「メドゥーサの首(自画像)」を観ましたが、こちらも凄かったですよ
宜しければ、サイドバーの「バックナンバ」⇒「2011年7月」⇒「異端の画家」⇒「メドゥーサ」をクリックして、バロックの鬼才の迫力を感じて見て下さい
子供の頃から目を見たら石になるという印象しかなかったです。
楽しませて頂きました。
sakura[E:cherryblossom]