過日、“ 第148回芥川賞・直木賞の選考会が開かれ、芥川賞には史上最年長となる75歳、黒田夏子さんの「abさんご」が、直木賞に戦後最年少となる23歳、朝井リョウさんの「何者」と安部龍太郎さん57歳の「等伯」がそれぞれ選ばれた ” との記事(朝日・1/17)があった。
今回は受賞者の年令、芥川賞が23歳で直木賞が75歳だったらちっとも面白くない。の両極端振りも話題になったようだが。
文学賞と言えばこの作家、山本周五郎(1903年‐67年)を思い出す。
彼は、「さぶ」「赤ひげ診療譚」などの長篇、「おたふく物語」「季節の無い街」などの中・短篇で、市井に生きる庶民や名も無き流れ者を描き共感を得ている。
また、「樅の木は残った」の原田甲斐、「正雪記」の油井正雪、「栄花物語」の田沼意次など、悪人と評伝される人物にスポットを当てた歴史小説にも優れたものを遺している。
彼は戦火激しい1943年(昭和19年)、「日本婦道記」で第17回直木賞に推されるも辞退、直木賞史上唯一の授賞決定後の辞退者となっている。
以来、「樅の木は残った」が毎日出版文化賞(59年)、「青べか物語」が文藝春秋読者賞(61年)に選ばれるが辞退している。
一説に拠れば、賞を主宰する文藝春秋の菊池寛との不和が挙げられているが、「日本婦道記」や「松風の門」など、戦中、軍部に迎合する作品を書いたことで賞に値しない、と考えたのも理由のひとつだったとの評論を読んだことがある。
話は少しそれたが、今回の両賞の報道で山本周五郎なる純文学と大衆小説の狭間で、日本人の生き様を丁寧に描いた作家がいたことを改めて思い出したという次第。
ところで、彼の「大炊介(おおいのすけ)始末」という短篇集に、『なんの花か薫る』という佳篇がある。
酔って喧嘩をし、追われてきた若い侍が遊女の機転で助けられ、それを機に勘当の身となった侍と遊女は将来を約束する中になり、遊女はその恋の成就にすべてをかけるようになっていく。
だが、勘当が解けた侍は、嫁を貰うことになったと告げに来る。別れの場には仄かに匂う花の薫りが・・・。
残酷な裏切りの形となって結末を迎える中で薫る花は「卯の花」だけれど、今の時期は「沈丁花」、まだ、蕾は少し硬いようだ。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.578
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