5月の第二日曜、母の日だった。
カタリナ、生憎この日を病床で迎えたが、かけがえのないR君、I 君兄弟からそれぞれプリザーブド・フラワーのプレゼントを貰い、「お礼にハグさせて」と照れる彼らを抱きしめて喜んでいた。
母の日と言えば、アルテ・ピナコテークの一室に極めつきの絵がある。
その絵とは、イタリアは盛期ルネサンス最大の巨人にしてミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564 )の永遠のライバル、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の 「カーネーションの聖母子」(上)。
この絵を前にカタリナ、「何度も何度も見返したダ・ヴィンチのこの絵」、抱えて持てるほどの小品。
霞みにぼかしたようなスフマート技法を駆使した背景に、カーネーションを持つ聖母と幼子キリストを静謐な絵筆で描いてい、「出来ることなら持って帰りたい衝動に駆られる」なんて、物騒な感想を漏らしていたっけ。
話が少しそれるが、ラファエロ・サンティ(1483-1520 )を加えた三巨人が、“ 聖母子・聖会話 ” という同じモチーフで描いた絵を一堂で見ることはなかなか難しい。
が、組み合わせは別にして、ロンドン・ナショナル・ギャラリーやウフィッツイ美術館、ルーブル美術館などと並んで二人の作品に、ここアルテ・ピナコテークでも会えるのが嬉しい。
同じ展示室には、そのラファエロの 「カニジャーニ家の聖家族」(下)も架かる。
この絵は、聖母子と聖母の母聖アンナと父聖ヨアヒム、そして、洗礼者聖ヨハネを描いた、“ 聖会話 ” がテーマだとか。
聖母マリアは大地に腰を下ろし、幼子イエスに足の甲を踏ませ謙譲の意を表しているとされる。
ラファエロ描くところの聖母子、どの絵にも見られる細部まで明瞭に描かれた聖母マリア。
この絵も、聖マリア、聖母の父母、そして聖ヨハネを、三角形の構図で配置する方法によって、主題が表現されているのだそうだ。
ちなみにカニジャーニとは、この作品を最初に所蔵していたフィレンツェの一族の名に由来しているとか。
ラファエロ、幼い頃に愛する母を失ったことから、好んで聖母子を描くようになったとも言われている。
母の日、甘く、ちょっぴりほろ苦かくもあった日々を、母が注いでくれた愛の数々を、思い偲ぶ日でもある。
そんな日に相応しい二枚の絵、五世紀の時を経ても母は優しく、そそがれる愛は少しも色褪せない。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.609