絵や本は人を高めたり豊かにしたりする。
音楽は、それに加えて人を圧倒すると、中学生のときヘンデルの「水上の音楽」を聴いて思った。
音楽が人を魅了する力に圧倒され、聞いているだけで創造の世界が開いた。
いろいろ聴いて、壮大なオーケストラより、ひとつの楽器が奏でる音楽が性に合った。
ハープシコードの音が好きだが、もうひとつ、オルゴールの音も好きだ。
オルゴール、それは、私を幼い頃に戻してくれる魔法の箱。
何歳だったろうか、父が小さな箱をくれた。
蓋を開くと音楽が流れ、「オルゴールというのだ」と初めて教わった。
なぜ、レコード盤も無いのに音が鳴るのか不思議でならない私は、音のなる元を知りたくって箱を弄り回し、探った。
ぜんまいがあったような記憶はあるが、オルゴールは単なる箱になった。
母がすごく怒ったが、父に叱られた記憶は無い。
長じても母は、いつも私が「壊し魔だった」と言った。
これは、覚えているのか、聞かされ続けて覚えていると思っているのか分からないが、当時、珍しかったミルクのみ人形を貰ったとき、半日で壊したという。
「お人形は?」と母が聞いたら、私は人形の頭の毛を持ってぶら下げてきたが、無残にも首から下は無かったそうだ。
このときも私は、ミルクを飲むと、なぜ「ママー」と人形が喋るのか不思議なので調べたと言ったそうだ。
女の子らしくない子だった、と言われるたびにこの話が出た。
六甲山上にオルゴール・ミュージアムがある。
予てから機会があれば訪ねてみたいと思っていたのだが、今年最後の祝日、その思いが叶った。
ミュージアムでは、日に何度かオルゴールの演奏が行われている。
ドイツではクリスマスの時期になると、グリム童話「ヘンデルとグレーテル」が演奏されるそうだ。
この日、オルゴールとは思えない「ヘンデルとグレーテル」などの演奏を聴いて、そんな幼かった頃のことを思い出しながら、のんびりとしたひと時を過ごした。
幸せな気分で帰宅すると、R君から「クリスマス・カード」が届いていて、さらに心が温かくなった。
彼にお礼の電話をすると、「足を描くのを忘れたんだ。失敗作なんだ。」と、生意気な返事が返ってきて電話口で笑ってしまった。()