Pegasus_rc's blog

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書評:最後の王者

2011-12-29 00:06:23 | 書評









最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡




 ずっと読みたかった本を手にする事が出来た。2009年、61年続いていたロードレース世界選手権250ccクラスの最終シーズンにチャンピオンを獲得した青山博一の活躍を追ったルポルタージュだ。

 ホンダのスカラシップによって世界への挑戦を開始した青山だったが、チャンピオンまでの過程は決して容易いものでは無かった。次のシーズンもKTMで継続参戦するかと思われたシーズン終了間際に突如、KTMは選手権からの撤退を発表する。青山は他の移籍先を探さざるを得ない状況に追い込まれるが、既に有力チームは契約を済ませており、彼の行き先はどこにも無かった。そんな窮状を救おうと多くの関係者が手を差し伸べ、ようやくスコット・レーシングにシートを得る事が出来たのだ。

 思わぬ形でホンダのRS250RWに乗る事になった2009年シーズンだったが、そのマシンは開発が終了したもの。更にスペアマシンも無い貧弱な体制での戦いを強いられることとなる。

 彼は、我が身の境遇に腐ることなく、走る喜びを力に変え、着実に一歩一歩ポイントを積み重ね、念願の世界チャンピオンの栄冠を手にする事になったのだ。

 本紙は、青山の事だけでなく、高橋裕紀がシーズン中にもかかわらずシートを失う事件に関しても分かりやすく描写されている。私も当時の事を思い出し再び憤りを感じてしまった。

 著者の西村章氏は、緻密な描写を分かりやすい表現を用い書いており、MotoGPの事を全く知らない人も読んで面白いと感じる事が出来るだろう。それが、本書が小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した所以でもあろう。

 反面、私のような筋金入りのファンにとっては、説明がまどろっこしくてテンポよく読みづらい面もある。また、ブログで情報発信している身なので、ほとんどの事柄は既知の事であり、新しい情報を得る事も無かった。

 そんな訳で、一般の人たちに特に読んでもらいたい一冊だ。MotoGPという世界がどういうものか。面白さや厳しさを感じる事が出来るだろう。
 もちろん、ディープなファンも読んで損は無い。お正月に読む一冊にどうでしょうか。






最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡

著/西村章

単行本: 231ページ
出版社: 小学館
ISBN-10: 4093798206
ISBN-13: 978-4093798204
発売日: 2011/3/16
定価: 1,680円(税込)




風にそよぐ墓標

2011-01-25 23:51:14 | 書評


以前、「にあんちゃん」という本をここで紹介しましたが、2回目の書評です。



この数年、仕事関係以外の本を読む時間が無く、雑誌すら読まない日々なのだが、ふと手に取った本がこれです。

「風にそよぐ墓標-父と息子の日航機墜落事故-」 門田 隆将 (著)




今から25年前に御巣鷹山に墜落した日航機事故で家族を失い壮絶な人生を歩まれた方々のルポルタージュ。

最愛の人を失う悲劇と絶望は想像を絶する。

文章を追いながら、何度なみだをぬぐったであろうか。
この辛さ悲しみを思うと胸が張りさせそうになった。

家族の生存に一縷の望みを託しながら、絶望へと叩き落され、事故を期にその後の人生を翻弄される。



この本は、私に多くの示唆と教訓を与えてくれた。
その中でも、特に子を持つ親としてハッとさせられた事は、普通でいられる事に感謝し、幸せを認識せねばならないという事。




本書から一部抜粋

 今、慎太郎は、幸せというものをしみじみ感じている。家族がいること - それが慎太郎にとって、最高の幸せなのだ。子どもと公園に行って遊び、毎日、寝顔を見ているだけでも幸せだし、子どもの写真を撮って、それを見ていても、幸せだと感じる。

「毎日思うんですよ。こんな幸せないなって、毎日。嫁さんにも、よく言うんですよ、幸せやなあって。あんなことを経験しなかったら、僕もこの幸せがわからんかったと思うんですよ。
だから今、人並みっていうか、普通に幸せっていうのが、最高なんですよ。・・・・

私も今、すごく幸せです、と妙子が言う。(奥様)

「パパも毎日、“幸せよう”って言ってくれるんですよ、ふいに。よく子どもの様子をニコって笑って見てて、私が“パパ、いま幸せなん?”って聞くと、“もう、すごい幸せよう”って言ってくれるんです。子どもが喧嘩して、ガチャガチャしてても、笑顔でにこにこ笑って見てて “かわいいわぁ。ほんま幸せやなあ”って言うのは、ほんと、毎日のように言うてくれるんですよ。それを聞く私の方も、そう言ってもらえたら、ほんま幸せですよね。・・・





普段、我々はほんの些細な事に不満を感じ、また境遇を嘆いている事もあるだろう。
しかし、よく見てみれば、幸せの種はそこらじゅうにあるのです。
それに気づくか気付かないかで人生の豊かさも変わってくるかもしれない。

私自身も、子どもが兄弟げんかしたり、部屋を散らかしっぱなしにしたり、勉強しなかったりで頭にきて怒鳴ったりしてたけど、心に余裕がなかったと気付いた。
心に余裕が無い状態でく怒っていたって、伝わらないし、良い影響を与えられるはずもない。

愛する家族がいるだけで幸せなのです。
親が変われば子も変わる。これは他の人間関係にも言えると思います。



あれから25年も経過してしまったが、決して風化させてはいけない事故です。
また犠牲者を出さない為にも、この教訓を忘れてはいけない。

重いテーマだが、是非、多くの人に読んでもらいたい。
普通の幸せに感謝し、前向きに生きるヒントを与えてくれると思います。






    「風にそよぐ墓標-父と息子の日航機墜落事故-」

    門田 隆将 (著)

    単行本: 312ページ
    出版社: 集英社 (2010/8/5)
    ISBN-10: 408780576X
    ISBN-13: 978-4087805765







「にあんちゃん」

2009-05-12 20:46:29 | 書評
最近読んだ本の中で、人に薦めたくなる本がありました。

「にあんちゃん」 十歳の少女の日記です。


この本を皆に読んで欲しい。
僕は、読んで心が洗われました。

両親を無くし、兄弟四人で貧しいながらもひたむきに生きて行く有様を少女の純粋で豊かな感受性で書き綴った日記です。

僕はうまく書評が書けませんので、出版元の記事を抜粋しておきます。



 著者、安本末子さんの日記を長兄がまとめた「にあんちゃん」は、一度は絶版となったが、全国の読者からの熱望により2003年に復刊。最近では韓国でも翻訳版が出版され、幅広い世代で読み続けられているという。両親の死、長兄の失職、極度の困窮と一家離散…。こうした悲劇は、若者の非正規雇用や中高年のリストラ、格差の拡大など、今日にも通じる問題だ。「にあんちゃん」が読み継がれるのは、不安定な社会的背景への共感と、絶望のふちにありながらも互いに相手を思いやり、助け合って希望を見いだしていこうとする兄妹の深い愛情に心動かされるからだろう。
 教科書を買う余裕さえなく、転々と近所の家に預けられる日々に不安を抱く妹を“にあんちゃん”は「心配すんな。死にはせんさ。どがんかなるよ」と慰め、前向きな姿勢で運命を切り開こうとする。卒業式では「努力賞」を受賞した“にあんちゃん”。末子はこう書き留めた。


[三月二十三日 火曜日 晴]
 春のにおいを、そよ風にのせて、きょうは、そつぎょうしきの日でした。
「安本高一」という先生の声に、前を見ると、六年生のれつの方から、
にあんちゃんが、でてこられました。
にあんちゃんは、とくべつに「どりょく賞」をもらわれるのです。
 でてきたにあんちゃんを見ると、やぶれたようふくです。
みんなきれいなふくをきているのに、ふせふせ(つぎはぎ)した上下です。
ただ、ほかの人とおなじところは、かみの毛をつんでいるということだけです。
 にあんちゃんは、校長先生の前に進んで行きました。
校長先生は、「どりょく賞」のもんくを、読みはじめられました。
 いま、にあんちゃんは、どんな気持ちがしているでしょうか。
 村長さんや大鶴の所長さんたちが見ている前に、
上も下もふせ(つぎ)あてだらけのようふくをきて立って、
どんな思いがしているでしょうか。私はかなしい気持ちでいっぱいでした。
 私は勉強もできませんし、こじきのようなかっこうもしていますから、
もしもにあんちゃんがいなかったら、いや、いたとしても、にあんちゃんが
勉強ができなかったら、この一年も、だれからでも、いじめられたり、
にくまれたりして、すごしてきたことでしょう。
 けれども、にあんちゃんが、勉強ができるおかげで、私は、だれからも、
ばかにされたり、いじめられたりしたことは、いっぺんもなく、
いま、ゆっくりと、四年生をそつぎょうできるのです。
 にあんちゃんは、びんぼうにもくじけず、勉強にはげみ、同級生には、
ぜったいまけない頭をもっておられます。
 お金があろうと、なかろうと、一日も学校は休まず、家に帰ってからも、
二、三時間はかならず、たとえ十時がすぎようと、予習ふく習してねられ、
しけんは、たいてい百てんばかりで、八十二点がさいていというような、
りっぱなせいせきを、持って帰るのです。
 私は、にあんちゃんのすがたを見ているうちに、なみだで目がかすんで、
なにを見る元気もなくなり、となりの人に、もたれてるようにしておりました。







にあんちゃん 十歳の少女の日記

* 作者: 安本 末子
* 出版社: 西日本新聞社
* 発売日: 2003/06
* メディア: 単行本
四六判/並製/1,260円
ISBN4-8167-0575-9 C0095