フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

ミシェル・トゥルニエ再び MICHEL TOURNIER (II)

2006-07-29 00:20:48 | 海外の作家

つながる時なつながるものである。昨日届いた Le Point に81歳になるミシェル・トゥルニエさんが老境についてのエッセイを書いているのが見つかった。早速、「80歳の方、お元気ですか?」 "Comment vas-tu, octogénaire ?" と題されたそのエッセイを読んでみた。何とも言えぬ味わいがあり、御老境にある方のお話がよくわかるようになってきているふしがある。

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彼が最初に歳を意識したのは大分前になるが、地下鉄でうら若き女性に席を譲られた時。本当に驚き、怒り出す寸前まで行ったという。

"Le premier choque de la vieillesse, je l'ai éprouvé il y a fort longtemps, la première fois qu'une jeune fille m'a cédé sa place dans le métro. J'étais stupéfait. J'ai failli me fâcher."

同じような経験は私には未だないが、若い人の受け答えの中に年長者を敬うような雰囲気を微かに感じることがある。そんな時、これは今まではなかったな、と自らに語りかける。

80歳を超えると、もう未来がない (Je n'ai plus d'avenir.) と感じるらしい。ラ・フォンテーヌが言っている。

"Passe encore de bâtir, mais planter à cet âge !"
「この歳で家を建てるのならまだいいが、種を蒔くなんて!」

彼の感覚では家を建てるのさえ、ということらしい。10年程前なら新しい家に移ろうと決断できたが、今ならいい家を見つけてもその気にはならないらしい。

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それから人の目がある。特に老人を蔑ろにする視線が。
"Il y a un mépris ambiant pour les personnes âgées."

それは古きよき物を簡単に捨て、新しいもの、新鮮なもの、若いものに走る傾向に繋がっている。彼は若者のための政党だったナチのことをよく覚えている。
"Son idéologie comprenait une véritable obsession de la jeunesse."

そして新鮮な肉を食べる夢を見るようになる。戦争はいつも若者を食い尽くすものなのだ。
"La guerre a toujours été une grosse mangeuse de jeunes."

また2003年の熱波により15 000人もの老人が主に老人ホームで亡くなっている。ある意味見捨てられた人々の死である。彼はこの出来事を極めてフランス的と見ている。8月に都会 (パリ) から人がいなくなるという現象 (au mois d'août, on ferme et on s'en va.) と密接に関連していると見ている。イギリスやドイツでは8月にも子供は学校に行っているというのに。この置き去りにされた死。お産が7月に増え8月に減るという統計を見れば、その訳がわかるだろう。8月のバカンスを確保するために日程を調整しているかのようだ。

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児童性愛者の問題は耳にたこができるほど聞かされている (On nous rebat les oreilles avec des histoires de pédophiles.)。しかし老人性愛 la gérontophilie はどうだろう。この問題を心配している人はいるのだろうか。彼はセクハラ紛いのことを言われたり、怪しげな電話やラブレターに取り囲まれているという。冗談じゃなく、これほどもてたことはないと言っている。

ビクトル・ユーゴーはこのことをよく見ていた。彼の有名な詩 "Booz endormi" にはこうある。

"Les femmes regardaient Booz plus qu'un jeune homme,
Car le jeune homme est beau, mais le vieillard est grand.
....
Et l'on voit de la flamme aux yeux des jeunes gens,
Mais dans l'œil du vieillard on voit de la lumière."

「女性は若者よりブーズを見ていた
 なぜなら若者は美しいが、老人は高貴だから
 ...
 そして若者の目には炎はあるが、
 老人の目には知恵の明かりがある (のだから)。」

なぜか元気の出る詩である。

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「老年の慰みは3つしかない。それは権力と富と名声である。」 と言った人がいる。

"La vieillesse ne connaît que trois consolations: le pouvoir, la richesse et la célébrité."

彼はそのいずれも持っておらず、いまだに働きつづけているという。老人は働かせるべき、という彼の考えには私も賛成である。老人はどのように働きたいのか、老人をどのように働かせるのか (活用するのか) を考えるのが、これから重要になるのだろう。

コメント (2)
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