パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君⑪

2016年08月05日 | 野望
中間テストが終わり、答案が返ってきはじめた。
また5割の男に戻ってしまったオレに太郎ががっくりと肩を落としたが
オレは、今日の5限に返ってくるであろう日本史に全てをかけていたから平気だった。
太郎は相変わらず9割の男だった。
そして・・・運命の5限目。
テストを返される時に、こんなにドキドキ緊張するなんてこと初めてだ。
いつも無愛想な福島先生が「まちゆい!良く勉強してたな!」
こんなこと言われるのも初めてだ。
94点。すっげ~。
中学の時もとったことない数字だ。
席に戻っても顔がにやけてしょうがない。
太郎は、返された答案を見た瞬間、えっ!と驚いた顔をした。
福島先生が「やっと太郎が満点とったぞ。こいつ、いつも惜しかったんだよ。」
太郎が、目をくりっくりさせながら振り返り、皆に向かってVサインをした。
オレは机に突っ伏した。

「まちゆいの魂胆なんて見え見えだったんだよ。
日本史やってるとこしか見てないし。
はは~ん、こいつ日本史に賭けてるなって。
おかげで俺も気合いが入ったよ。
見直すって作業、あまり好きじゃないんだけど、今回は答案用紙の隅から隅まで2回も見直ししたんだぜ。
そしたらさ、アホみたいなミス2カ所も見つけたよ。俺に足りなかったのはこれだったんだな。
っつーか、まちゆいさぁ、俺とテストで張り合おうなんてするなよ。
俺はさ、なんでこの高校入ったかっていうと、まあ、近いってのが一番の理由だけど
「スマート」の常連さんたちから、ここの校風っつーか代々の校長の考え方ってのを聞いてて
結構いいなあと思ったのもあるんだ。
クラスメートと一点二点を争ったりしてもしょうがないだろ。
アイツには負けたくないとか、そういうライバル心みたいなのも大事だけどさ、
目標あっての点数だろ。
俺もちょっとムキになって日本史に力入れ過ぎて、他の教科とのバランス崩したけど、
お前はもっと、目も当てられないことになってるだろ、数学とか。
ここの校長のセリフで「受験は団体戦だ」ってのもあるんだ。かっこ良くねーか?
ギスギス隣のヤツの点数を気にするより、みんなで大学受かろうぜって気持ちで勉強するほうが絶対精神的にいいと思うんだよな。
俺、将来法曹関係の仕事につこうと思ってる。
だから、大学は中央大学の法学部って決めてる。
多分、指定校推薦枠とれるから3年の秋には決まると思うんだ。
そうすると、秋の文化祭に力を入れられると思うんだよな。
俺、ちょっとやりたいことがあるんだ、文化祭で。
それには、お前の力も借りたいんだよ。
だから、お前も秋には大学が決まっててほしいんだ。
まちゆいは、どこの大学に行きたいんだ?何になりたいんだ?
まだ、何も決まってないんだったら、同じ大学へ行かないか?
大丈夫!まだ今から頑張れば推薦とれると思う。
二学期の期末、三学期の期末、三年の中間。この3回、死にものぐるいで点数上げれば何とかなるはず。
そしたら、夏休みから、文化祭の準備に入れる。」
スマートで、マスターのコーヒーを飲みながら、俺は自分の幼さを恥じていた。

太郎は文化祭で何をしたいんだ?俺も一緒にやるってことか?
家に帰ってから、将来の事やら大学の事やら入試のことやら考えた。
1年の成績表も引っ張りだして評定を計算したりした。
去年の卒業生の受験結果の資料集なんてものも、初めてちゃんと見たりした。
自分の子どもじみた行動を恥ずかしいと思う気持ちが大きすぎて、太郎に文化祭のことをもっと詳しく聞く事もせずぼんやりと聞き流してしまったが、
あの、太郎の事だ。
「まちゆいの了解はとれた」ぐらいに解釈してるかもな。
でも、なんだか楽しそうだな。
頑張れば、俺だってなんとかなるかもしれないってことは、日本史のテストでわかったし
他の教科も同じくらいに頑張れば9割の男になれるってことだよな。
太郎と同じ大学に行けるかもしれないよな。
なんだか、大学生になった太郎と自分を想像してワクワクした。
今より、もっと楽しい毎日になりそうだ。
その前に、太郎が、受験と同じくらいの勢いで何かをやりたがってるのも気になる。
明日、太郎に「文化祭」のことをもっと詳しく聞かなきゃと思いながら、俺は寝た。

少しづつ、俺は変わった。
いや、勉強に関しては、すごく変わった。
なるべく効率よく勉強するには、授業に集中するべきだということに気づき
そのためには予習しておくべきだということも、今さらながらの大発見だった。
そして、これほどテストが待ち遠しいってことがあるのかと驚くほど、期末テストを待ちわびていた。
いつもの、テスト二週間前からの「まちゆいくんの喫茶店」期間には、もう、軽くおさらいする程度だった。
行き帰り二時間の通学時間も、みっちり勉強タイムに組み入れられ、さらに、その合間を縫って情報収集にも力を入れていた。
情報収集とは、来年の文化祭で太郎と漫才するためのネタ集めだ。
太郎がさんざんもったいぶった後に打ち明けた「文化祭でやりたいこと」とは
俺と漫才コンビを結成して、漫才をするということだった。
太郎は、目をくりっくりさせて「もう、コンビ名は考えてあるんだ。
『マザコンズ』
どう?ウケそうだろ。
所詮男はみんなマザコンなんだよ。
それなのに、思春期という複雑な感情により、それを隠そう隠そうとして母親との仲を険悪にしている。
受験に挑むには、母親という絶対的な協力者が必要なくせにだ!
そこで、オレたちの漫才で、息子と母親のぎこちない関係を緩めようじゃないか。
母親ってのは、結構なネタの宝庫だと思わないか?
うちのかーちゃんなんてのも、チョーおもしろいし、まちゅママもいっぱいネタあるだろ?
穂積んちのかーちゃんのメールなんて、毎回爆笑するぜ、おもしろくて。
っていうか、あいつんち、家ん中でもメールで会話してるからな。
「お風呂はいりなさい」とか、「飯まだ?」とか。
どんなに広い豪邸なんだよ!って話だよな。
そういうネタをいっぱい集めて、少し物真似とかも入れて、その親子には「あら、それってうちのこと?」って思えるくらいな感じに仕上げる。」
それって、逆効果じゃないか?
親子の仲の亀裂をますます広げないか?
と心配する俺に「大丈夫大丈夫!そこは、俺の腕で、うまくまとめて、最後はかーちゃんたちを泣かせてみせるさ。」
期末テストには何の不安もなかったが、文化祭の漫才コンビには少々の不安を感じつつも
オレたちの計画は静かに進められていった。


街結君と太郎君①
街結君と太郎君②
街結君と太郎君③
街結君と太郎君④
街結君と太郎君⑤
街結君と太郎君⑥
街結君と太郎君⑦
街結君と太郎君⑧
街結君と太郎君⑨
街結君と太郎君⑩
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