尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

死んだことのない人間

2008年09月10日 00時17分25秒 | 詩の習作
一度も死んだことのない人間は
自分の他に誰も
愛した事もない人間だ
愛した人間だけが
何度も死ぬ
そして必ず生き返る
もう愛さなくてもいい時まで

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秘境(南米特集)

2008年09月09日 23時58分19秒 | 詩の習作
「秘境」(元稿)


ギアナ高地の
エンジェルの滝より
もっと密やかに

私どもの身体の
今、ここにある暗闇には
深淵のクレパスが走り
いちまいの
水の膜が
とうとう
流れ落ちている

今、この瞬間において
昨日を明日へ
更新し続ける
命の瀑布である

落ちている
私の
いちまいの水の膜に
蒼い刺青の
男の神の仮面を流し
獣の口は
ほう ほう ほう」
と呼ばわり
一枚になろうよ

おちている
あなたの
いちまいの水の膜に
朱の刺青の
女の神の仮面を流し
楕円の口は
おう おう おう
と答え
一枚になるよ

激しく落下する
あなたの
いちまいの水に
私は合流の
もういちまいの燃える水
星のしぶきを
ばらまけい ばらまけい
踊る二枚の瀑布の祭り
甦るビックバンの記憶

二枚は
やがて静寂の
いちまいの朝になる
しかし
明日には届くことはない


「秘境」(改稿)



ギアナ高地の
エンジェルの滝より
もっと密やかに
しかしもっと激しく
大仕掛けの秘境があるだろう
私のここと
あなたのそこに

私どもの身体には
深淵の亀裂が走っており
昨日より流れてきた水か
明日という奈落のほうへ
とうとう流れ落ちている
すべてが昨日になると
私どもの物語は終わりだから
私のここはあなたのそこは
この瞬間において
昨日を明日へ交換する装置
命の秘境 命の瀑布である

落ちてる私の
いちまいの水に
蒼い刺青の
男の神の仮面を流せば
落下する獣の口は
ほう ほう ほう
と火吹き あなたを呼ばわり
いちまいになろうよ なろうよ

落ちてるあなたの
いちまいの水に
朱の刺青の
女の神の仮面を流せば
落下する楕円の口は苦しくゆがみ
おう おう おう
としぶいて私に答え
いちまいになるよ なるよ

合流の
いちまいの燃える水

星甦る
ビックバンの記憶
星のしぶきを
暗黒の宇宙に ばらまけい ばらまけい

秘蹟には違いないが
それでも明日が来たことはなかった
来るのはいつも
一枚の薄明の朝である
その底に白い布が
横たわっていた
二枚

今ここにある
秘境
私と
あなた








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「真珠貝の唄」(歌曲用)

2008年09月09日 00時37分03秒 | 詩の習作
「真珠貝の唄」



わたしは閉ざされた目蓋の形
永遠を聞く耳の形で
深い海の底に置かれています
自分の吹いた砂粒でさえ
見ることはないでしょう

シューラ シューラ リル リル リル 

遠い呼吸のような潮騒の音に
耳を澄ませています
果てしない昼と
果てしない夜と
果てしない夢と

果てしなく広がってゆく
気持ちのその真んなかで
たった一つ
痛みとともに結晶していく 
小さな星があるのです

シューラ シューラ リル リル リル 

地球は こんな形じゃないかしら
あなたは こんな形じゃないかしら


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達磨さんごっこ

2008年09月08日 21時32分01秒 | 詩の習作
昨日はいつも止まっているのだろうか
達磨さんごっこ
ではないが ふり向くと
人差し指を何かに向かってさしたまま
知らない女がとまっている
何かを飛び越そうとして
左足を持ちあげたまま
知らない男がとまっている
ふりむくといつも
行為の途上で止まっている
石のような誰かの姿がある
だから僕は前を向いて歩き続ける
ときどきは固まるふりをして
また歩き始める

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クロスワード・パズル

2008年09月07日 15時52分37秒 | 詩の習作
「クロスワード・パズル」
          


今日は
かわいい小鳥のさえずりが
はじめて人の言葉に
翻訳できた日

ティル ティル ティル
ティラララ ティラララ

たとえば夜空の星のまたたき
雨上がりに架かる七色の橋
たとえばモナリザの不思議な微笑み
はじめて会うのに懐かしい人
宇宙のクロスワードパズルが
解けたのだろう
次から次へ
人々は重かった頭を起こし
額が明るくなって
手をつなぎ頬をふくらませ
鳥の言葉で歌いはじめた

宇宙のパズル
ヒントは
ティル ティル ティル
ティラララ ティラララ

子供たちは
辞書をほうりなげ
検事は
六法全書をほうりなげ
指揮者は
楽譜をほうりなげ
兵士は
武器をほうりなげ

宇宙のパズル
答えは 
ティル ティル ティル
ティラララ ティラララ




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回転力

2008年09月07日 01時22分51秒 | 詩の習作
男の掌と掌の隙間には
不思議な磁力があるのだろう
鈍色に光る女の首を軸として挟み
(絞めているのではない)
何の祈りの真似だろう
すり合わしすり合わし えいやっ! 
の気合いで放り出す 
と、なんとまあ
女はぶんぶん唸りをあげ
斜めに立てかけられた
畳の坂を駈けのぼるのであった

観客は風車のように回転する
女の法悦の表情と
男の苦しむようにも見える
猫背の背中にちぐはぐな色気を感じ
喘ぎも隠せず生ツバを呑み込むのであった

男がわからなくなる
女がわからなくなる

帰り道 蝋燭の光であぶり出されていた
舞台というものの全体が
今夜の好色な男と女たちのためにではなく むしろ
彼等の遠い先祖から信じなくなったもののためにこそ
捧げられていたことを 
わずかな舌鼓とともに思い出すのである
家に残してきた我が子の首のことなど心配になり
砂利の上で足早になるのだった

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ある女のひとの秘密

2008年09月05日 00時45分39秒 | 詩の習作
自分を人間だと
夢にも思わないと言いいながら
とても美味しいピラフを作ってくれた
新聞のチラシで鶴を折り
窓からまだ濡れている道の方へ飛ばしたあと
帰っていった

その月の終わりの日曜日に
彼女は僕の親友であった男と結婚するのだが
彼等と二度と会うことはなかった

何もかも許されていたような
特殊な時代 確かに僕らは
人間ではなかったが
そのたために不幸でもなかったのだ
折り鶴の落下のような
むしろ人間でないものを愛そうとしていた

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笑うんか?(大阪弁バージョン)

2008年09月04日 22時49分18秒 | 詩の習作
「笑うんか?」


もしもし ピンク色した空の
用事のなさに
君かって寂しい電話
かけたこと あるんちゃうか
誰でもあれへん
君の携帯番号に

そんな怖いことして
はいっ! 己が
出たらどないするんや

馬のように笑うんか
キスするんか
それとも あの日のように
泣いてしまうんか?

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あたりまえの作法

2008年09月03日 13時20分14秒 | 詩の習作
とうとうお前には
あたりまえが
むずかしくなってきたと
考えてみると
少しは楽になるだろう

あたりまえに
ゆで卵のカラを剥く
その白いあたりまえに
歯を立てるあたりまえ

あたりまえということの全体
温かくて丸い
白身と黄身の
おいしい構造に
歯を立てるあたりまえの
時間


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クジャクの羽の目

2008年09月02日 23時55分48秒 | 詩の習作
九月の弱りはじめた光線のなかにこそ
自分のまばゆさ故に瞼を閉じる瞳が降りそそぐのである
それは拡げられあっという間に閉じらた羽
その残像するクジャクの
目の模様のようである

目を閉じて浮かび上がる文様は
透かされた私あるいは
眼球そのものの正体と云っても
間違いではない

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