とても悲しい失恋だった
死ねないのが不思議だった
そして夏休みに入る前
彼の下宿で話をした
僕は宿命について
持論を語った
だってそれだけが
説明なしにすべてを
説明できる原理だからさ
なんどでも言うよ
君、そんな苦しいこと考えずに
楽しむことだよ
人生を楽しむことだよ
と先輩は何度でも僕に言ったのだ
とても悲しい顔でね
あんな悲しい顔を
その後の人生でも見たことはない
夏休みが終わると
悲しい知らせを聞いた
二度と彼は帰ってこなかった
大阪ということじゃない
あれから三十年かかったね
今なら僕も
悲しい顔をしないで
君、楽しむことだよって
君に言えるね
女のことも男のことも
少しはわかるようになったからね
この話わかる?
そんなことも分からないで
詩なんて書くなよ
いいや
分からないから
痛くもない
詩なんて書けるんだね
もう彼の名前も忘れたけどね
顔は忘れないさ
もう一度だけ言うよ
君、楽しむことだよ