尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

白い布を用いた思考実験

2005年10月27日 09時51分46秒 | 自選詩集
一枚の白い布を敷く。大きさは特定しない。あなたの想像しうる限り薄い布(二次元)、しなやかな布、強靭な布である。そこに、ありふれた林檎をひとつ置いてみる。隙間なく布で包む。この世に白い林檎が現象する。

あなたは、侍が首をはねる要領で、おもむろに、白い林檎を光速ではねあげる。我々は、幽霊のような蒼い電子の残像を見るであろう。林檎型に射抜かれた真空を見るであろう。それは物理学的な真空であり、形而上学的な真空である。いわば林檎の「無い」と云うことがその残像おいて「有る」。

林檎の無を見せてくれたあなたは最高の「奇術師」と呼びうる。あなたは素敵だ。
さて、この布で私を包み、現象した白い人を素早くはねあげるならば、あなたは白い人の無を見せた最高の「魔術師」と呼びうる。僕は、あなたが怖ろしい。

さらにあなたは、この布を我々の宇宙にかぶせ、現象した白宇宙を素早く取り去ることに成功する。「虚無(なにもない)」と云うことがその蒼い残像において見える。その時あなたは最高の「神」、あるいは最悪の「悪魔」と呼びうる。僕は、神と悪魔がセックスしているような、あなたが大嫌いだ。

神と悪魔の間でひらひらしている、このありふれた布のことを、世間では言葉と呼んでいる。この布をやたら見せびらかせ、ひらひらさせるばかりで、世界に何もなしえない人間のことを、世間では詩人と呼んでいる。僕は、鳩もだせないくせに、神を出そうとしているあなたが大好きだ。
       

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