尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

秘境

2006年01月12日 23時39分19秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
 「秘境」


ギアナ高地の
エンジェルの滝より
もっと密やかに

私どもの身体の
今、ここにある暗闇には
深淵のクレパスが走り
いちまいの
水の膜が
とうとう
落ちている

今、この瞬間において
昨日を明日へ
更新し続ける
命の瀑布である

落ちている
私の
いちまいの水の膜に
蒼い刺青の
男の神の仮面を流し
獣の口は
ほう ほう
と呼ばわり

おちている
あなたの
いちまいの水の膜に
朱の刺青の
女の神の仮面を流し
楕円の口は
おう おう
と答え

激しく落下する
あなたの
いちまいの水に
私は身投げする
もういちまいの燃える水
星のしぶきを
ばらまけい ばらまけい
踊る二枚の瀑布の祭り
甦る
ビックバンの記憶

二枚は
やがて静寂の
いちまいの朝になる
しかし
明日には届くことはない

今ここにある
秘境
私と
あなた


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ないもの

2006年01月12日 23時25分56秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
「ないもの」


描かれなかった絵
というものが
描かれた絵の回りには
無数にあるものだ

書かれなかった詩
というものが
書かれた詩の回りには
無数にあるものだ

生まれなかった人間
というものが
一人の人間の回りには
無数にいるものだ

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泥の舟

2006年01月12日 23時22分33秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
「泥の舟」


夜が明けても
沈まないで
がんばっている
泥の舟を
悲しむ
乗せている
タヌキを悲しむ

絵本を読んでから
ずっと

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2006年01月12日 23時19分26秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
 「蛇」

草むらへ
あわてて逃げてゆく
青い背骨よ

道はなくとも
すでにお前は
どこまでも続いてゆく
ひそやかな小道

川はなくとも
すでにお前は
どこまでも流れてゆく
寂しいせせらぎ

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鳩よ

2006年01月12日 23時14分14秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
鳩よ


公園では
日だまりの中
知らない鳩が
いっぱいだった

その夜
知らない詩を
書き始める
知らない詩のまま
書き終えた

思い出の
日だまりで
歩く度
首振る鳩ぐらい
遠く小さい
男だ

その男の
一生を
今日も生きたし
こうして
いわれのない男の
一日を閉じる

おおい
鳩よ


(自選集の「鳩よ」より初出の作品です。決定稿をどのようにするか、、もう少し 時間を下さい。こちらの方が素朴でけれんみがないですね。まこと)


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もう詩は書くな

2006年01月12日 23時07分49秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
  「もう詩は書くな」


傷ついて失語するのではない
失語することに
痛ましく傷ついているのだ

失語していると
僕の中にまちがいなく
僕よりも
僕を愛するものがいて
もう詩はかくな
と言っている
彼の気持ちがわかるので
その声がきこえると
泣いてしまいそうになる

もう詩は書くな
誰でもない
詩がそう言うのだ

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裸の王国

2006年01月12日 22時37分00秒 | 詩の習作
服を着ていると
奴隷と見なされた
みんな裸になった
みんな王様になった
みんな風邪をひいている

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悲しいことは何もない

2006年01月12日 00時54分38秒 | 自選詩集
緑地では子どもたちが
隠れん坊をしているようで
ところどころの茂みから
丸いお尻が見えたり
押しころした
笑い声があったりした

木漏れ日の中を
光る水桶を持って進んだ
ときおりウグイスが鳴いている
もう四十年だ
うららかなこの空のように
悲しいことは何もない

手を合わせた
目をつぶった
ウグイスが一番良い声で
鳴いてくれた
目を開いた
墓石の後ろから
男の子の頭が
斜めに出た

笑っている

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