<温泉三昧の宿(3)>
館内には、温泉浴場の状況が把握できるような親切な表示板もある。清掃時間や姉妹ホテルの浴場も案内されている。全館温泉暖房と、館内の水はすべて天然の湧水使用がそこにはさりげなく書かれている。

わたしは滝見の露天風呂の森のこだま、大浴場である甍の湯、総檜の御夢想の湯、岩根の湯をそれぞれ最低三回は入ってしまった。
どこも平日ならではの、いついってもほぼ独り占めの贅沢三昧の温泉三昧で心ゆくまで堪能した。
露天風呂の甌穴の湯、川の水量が増すと水没してしまうことから幻の湯といわれる混浴露天風呂「竜宮」も、そこまで歩くにはちょいと寒すぎるので入らず、別棟にある内風呂「翠の湯」も今回はいけなかった。

いつになるかわからないが、次回への持ち越しとしておこう。
四万温泉では温泉街にも飲泉所があって、観光客は自由に飲泉できる。

この宿にも二箇所、川三階のプールサイドと玄関脇にある。

源泉を飲めば、滅法胃腸に効くという。わたしも胃は丈夫なほうなのだが、毎日冷たい水割りをしこたま呑むせいでだろう、腸のほうはめっきり弱くなっている気がする。
だから温泉三昧のほかに、たっぷりの飲泉もさせていただいた。
プールサイドの源泉は熱く、玄関脇のほうが飲みやすい適温であった。

そうだ、食事にも触れておかねばなるまい。
温泉のいい宿は温泉だけで集客できる。だからたいていは、メシがまずいとしたものだ。ところが嬉しいことに、ここは違う。

ロビーに近い食事処はすべて個室スタイルであった。
夕食時間を決めるときにあらかじめ燗酒を頼んでおいたのだが、案内された卓の上には、湯の張られた桶に適温を保たれたお銚子がはいっていた。なんとも芸がこまかく、気がきいている。
「この酒の銘柄は?」
きりりとした辛口の酒でわたし好みである。つい訊いてしまう。
「船尾瀧といって地酒になります」
思いだした、食事処への階段上に飾ってあった樽酒だ。そういえば樽の味もするように思える。帰りにどこかで手に入れよう。

さて、供された夕食のメニューである。
食前酒が林檎酒。前八寸は占地胡桃和え、氷頭なます、バッテラ、蟹金色巻、才巻海老、ひじき蒲鉾、梅花大根紫蘇漬。向附が、季節の盛合せあしらい一式。
お椀が、鱶鰭白玉吹雪椀、白舞茸、芽葱、柚子。御菜が鰤大根で、大根、鰤、金平牛蒡。焚合せが、堀川牛蒡鶏射込み、くわい、椎茸、モロッコ隠元。鶏摘みれ鍋、野菜一式。鱶鰭茶碗蒸、海老、栗、銀杏、黒豆、粟麩、山葵。
白瀧と油揚げが入った鮭ご飯に網茸と三つ葉の赤出汁、香の物。デザートは、林檎プリン、キウイ、苺、花豆。
どの一品も手がこんでいて、一流料亭といっておかしくない料理であった。とくに、鰤大根は焼いた鰤で驚かされた。ただ、ご飯だけは(朝食も含め)米粒がけっこう欠けていたりして、惜しかった。
メニューの最後に「料理人」として氏名が書いてあったのが実に奥ゆかしくていい。普通なら総料理長とか料理長とか書く。「長」を使わないところがニクいではないか。
滞在中の接客も満点だったが、締めの見送りがすごい。たむら坂の上の玄関から、いつまでも見送ってくれていた。

茶の湯と同じ、これが宿における「残心」である。またここに来たくなる。宿賃さえ頂けば、言葉は悪いが「とっとと帰れ」といたふうな宿は見習うべきだ。
温泉三昧を目いっぱいしたのが幸いして、温泉街のメインストリートの硬く凍った雪もほどよく融けていた。

→「温泉三昧の宿(1)」の記事はこちら
→「温泉三昧の宿(2)」の記事はこちら
館内には、温泉浴場の状況が把握できるような親切な表示板もある。清掃時間や姉妹ホテルの浴場も案内されている。全館温泉暖房と、館内の水はすべて天然の湧水使用がそこにはさりげなく書かれている。

わたしは滝見の露天風呂の森のこだま、大浴場である甍の湯、総檜の御夢想の湯、岩根の湯をそれぞれ最低三回は入ってしまった。
どこも平日ならではの、いついってもほぼ独り占めの贅沢三昧の温泉三昧で心ゆくまで堪能した。
露天風呂の甌穴の湯、川の水量が増すと水没してしまうことから幻の湯といわれる混浴露天風呂「竜宮」も、そこまで歩くにはちょいと寒すぎるので入らず、別棟にある内風呂「翠の湯」も今回はいけなかった。

いつになるかわからないが、次回への持ち越しとしておこう。
四万温泉では温泉街にも飲泉所があって、観光客は自由に飲泉できる。

この宿にも二箇所、川三階のプールサイドと玄関脇にある。

源泉を飲めば、滅法胃腸に効くという。わたしも胃は丈夫なほうなのだが、毎日冷たい水割りをしこたま呑むせいでだろう、腸のほうはめっきり弱くなっている気がする。
だから温泉三昧のほかに、たっぷりの飲泉もさせていただいた。
プールサイドの源泉は熱く、玄関脇のほうが飲みやすい適温であった。

そうだ、食事にも触れておかねばなるまい。
温泉のいい宿は温泉だけで集客できる。だからたいていは、メシがまずいとしたものだ。ところが嬉しいことに、ここは違う。

ロビーに近い食事処はすべて個室スタイルであった。
夕食時間を決めるときにあらかじめ燗酒を頼んでおいたのだが、案内された卓の上には、湯の張られた桶に適温を保たれたお銚子がはいっていた。なんとも芸がこまかく、気がきいている。
「この酒の銘柄は?」
きりりとした辛口の酒でわたし好みである。つい訊いてしまう。
「船尾瀧といって地酒になります」
思いだした、食事処への階段上に飾ってあった樽酒だ。そういえば樽の味もするように思える。帰りにどこかで手に入れよう。

さて、供された夕食のメニューである。
食前酒が林檎酒。前八寸は占地胡桃和え、氷頭なます、バッテラ、蟹金色巻、才巻海老、ひじき蒲鉾、梅花大根紫蘇漬。向附が、季節の盛合せあしらい一式。
お椀が、鱶鰭白玉吹雪椀、白舞茸、芽葱、柚子。御菜が鰤大根で、大根、鰤、金平牛蒡。焚合せが、堀川牛蒡鶏射込み、くわい、椎茸、モロッコ隠元。鶏摘みれ鍋、野菜一式。鱶鰭茶碗蒸、海老、栗、銀杏、黒豆、粟麩、山葵。
白瀧と油揚げが入った鮭ご飯に網茸と三つ葉の赤出汁、香の物。デザートは、林檎プリン、キウイ、苺、花豆。
どの一品も手がこんでいて、一流料亭といっておかしくない料理であった。とくに、鰤大根は焼いた鰤で驚かされた。ただ、ご飯だけは(朝食も含め)米粒がけっこう欠けていたりして、惜しかった。
メニューの最後に「料理人」として氏名が書いてあったのが実に奥ゆかしくていい。普通なら総料理長とか料理長とか書く。「長」を使わないところがニクいではないか。
滞在中の接客も満点だったが、締めの見送りがすごい。たむら坂の上の玄関から、いつまでも見送ってくれていた。

茶の湯と同じ、これが宿における「残心」である。またここに来たくなる。宿賃さえ頂けば、言葉は悪いが「とっとと帰れ」といたふうな宿は見習うべきだ。
温泉三昧を目いっぱいしたのが幸いして、温泉街のメインストリートの硬く凍った雪もほどよく融けていた。

→「温泉三昧の宿(1)」の記事はこちら
→「温泉三昧の宿(2)」の記事はこちら
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