風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『プライド 運命の瞬間(とき)』に盛岡藩の無念を見る

2015-08-21 14:55:49 | 映画





                      





東条英機の父、東条英教は陸軍大学校の第一期生で、主席で卒業したエリートでした。

出世は同期の秋山好古などよりも早く、中将にまで登り詰めましたが、大将にはなれなかった。

そのことについて、英教は生涯恨み言を述べていたらしい。

曰く、「私が大将に昇進できなかったのは、私が盛岡藩の出身だから、山形有朋などの薩長閥の連中に疎まれ、差別されたからだ」と。




本当にそのような差別があったのかどうか、確たることは分かりません。この件には諸説あって、必ずしも盛岡藩出身者だという理由だけで、昇進が阻まれたわけではないらしい。

しかしながら、当の本人はそう信じていたわけだし、そんな父の姿を見ていた英機少年に、なんらかの影響を与えなかったとは、言えないでしょう。





                       
 東条英教  



東条英教は安政2年(1855)年、東条英俊の嫡男として盛岡に生を受けます。

東条家は宝生流能楽家として代々南部氏に仕え、秀俊の代に士分、つまり武士に取り立てられます。

英教は少年の頃に戊辰戦争を経験、故郷盛岡藩がいわれなき「賊軍」の汚名を被された時には、他藩士たちと同様、悔し涙に暮れたことでしょう。


その後、原敬などと共に藩校作人館で学び、藩の汚名を雪ぐためには、陛下の御為、御国の御為、身命を賭して働く以外に道は無しとして、陸軍教導団に入団、その後陸軍大学校に進みます。

そんな父、英教に、英機は徹底的に軍人精神を叩き込まれたようです。

その軍人精神の根底には、間違いなく作人館で学んだ「盛岡藩士」精神というべきものが、流れていたことでありましょう。



【盛岡藩は決して「賊軍」にあらず、この汚名を雪ぐには、身命を賭してお国に忠節を尽くす他なし】



父、英教は、あるいは子、英機に託したのかも知れない。

己がなれなかった大将の座に、息子が昇進することで、盛岡藩の汚名を雪ぐことを。


なにか、そんな気がします。



こうして英機もまた、陸軍大学校へと進み、軍人の道を歩むことになります。







盛岡藩が奥羽越列藩同盟に参加し、新政府軍と戦火を交えた経緯については、以前このブログで紹介させていただいたので、ここでは詳しく触れませんが、この映画で描かれている東条英機の姿をみておりますと、私には戊辰戦争時の盛岡藩家老、楢山佐渡の姿と重なって見えてしまうんです。


戦争の結果は致し方ない。しかし、死んでいった者達の名誉と、御国の名誉と誇りだけは、

なんとしても守り貫かなければならぬ。


そのことだけを思い、東条英機は東京裁判を「戦い」貫くのです。



【盛岡藩は決して「賊軍」にあらず】



東条英教の想いは、確実に、

息、英機の中に生きていた。


そんなことを感じさせてくれた、映画でした。







映画の中身についても、少し触れておきます。


パール判事の存在が映画全体の中で、今一つ生かされていない感じがしましたね。物語が分散してしまった、とでも言ったらいいか、どうにもまとまりに欠ける展開になってしまった感は否めません。

東京裁判のシーンはとてもスリリングで面白かった。でも全体的に余計なシーンが多いように感じられ、集中力が切れてしまうような展開なのはいただけない。大鶴義丹のエピソードは、なくてもよかったね。

もっと物語や登場人物等を整理すれば、より締まった「良い」映画になっていたかも知れません。

映画としての面白さを多分に持っている作品なだけに、その点がどうにも惜しい、と思いましたね。


津川雅彦さん、まるで東条英機本人が乗り移ったかのような迫真の演技でした。これは文句なしに素晴らしい!


私はこの作品を「血と情念」の映画であると、受け取らせていただきました。

盛岡藩士の血と、日本人の血と。「ふるさと」を守りたいと思う、純なる想い。

それ故の燃え上がるような「情念」。




勝ったとて驕るな、負けたとて、

「誇り」を捨てるな。



この世の事象はすべて「一時」のこと、しかして「魂」は永遠。

そのこと、努々


忘るるなかれ。



以上です。














『プライド 運命の瞬間(とき)』
制作 浅野勝昭
プロデューサー 田中壽一
        奈村協
        中山正久
監修(「プライド」制作委員会) 加瀬英明
                富士信夫
                國塚一乗
脚本 松田寛夫
   伊藤俊也
音楽 大島ミチル
監督 伊藤俊也

出演

津川雅彦

いしだあゆみ

奥田瑛二
前田吟

スコット・ウィルソン
ロニー・コックス

大鶴義丹
戸田菜穂

烏丸せつ子
前田亜季

寺田農
睦五郎

石田太郎
石橋蓮司

スレッシュ・オビロイ

平成10年 東映配給