『ワイルド・バンチ』(1969)、『わらの犬』(1971)、『ビリー・ザ・キッド 21歳の生涯』(1973)、『ガルシアの首』(1974)、『戦争のはらわた』(1977)、『コンボイ』(1978)等々、アメリカのバイオレンス・アクション映画の巨匠、サム・ペキンパー監督の個人的には最高傑作だと思う作品がコチラ、『ゲッタウェイ』。
主演はスティーヴ・マックウィーン。その妻にアリ・マッグロー。その他アル・レッティエリ。ベン・ジョンソン。リチャード・ブライトなど出演。
服役中の男、ピーター・ドク・マッコイ(スティーヴ・マックウィーン)は刑務所内で模範囚に務めており、仮釈放を申請しますが却下されてしまう。ドクの頭の中に浮かぶのは、妻であるキャロル(アリ・マッグロー)との愛の日々の妄想ばかり。
刑務所生活に耐えきれなくなったドクは、面会にきたキャロルに、裏の世界に強い政治力を持つ男、ジャック・ベニヨン(ベン・ジョンソン)に釈放の裏取引を手配するよう頼みます。キャロルはジャックの元へ向かい、出所後銀行強盗を働くことを条件に、ドクは仮釈放されます。
さっそく銀行強盗を働くドク。強盗は成功しますが、ジャックに付けられた相棒の男ルディ(アル・レッティエリ)が、ドクに銃を向けます。
一瞬速く銃を放つドク。撃たれて頽れるルディ。ドクはジャックの事務所へ乗り込みますが、ドクの背後に銃を持って忍び寄るキャロルの姿が。
キャロルはドクを撃とうとしますが、急に銃口をジャックに向けると銃を連射。ジャックは銃撃により後方へ飛ばされ絶命します。
ドクはすべてを悟ります。キャロルはジャックと寝ることでドクを釈放させたのだ。その際、キャロルはジャックから、ドクを捨てて(殺して)ジャックの女になるよう誘われたのだと。
キャロルは最終的にジャックではなくドクを選んだわけですが、妻が自分以外の男と寝たことが許せず、キャロルに辛く当たります。それでも妻を捨てることは出来ず、ドクは妻キャロルとともに盗んだ金を持って、メキシコに逃げようとします。こうしてドクとキャロルは、ジャックの身内と警察と、そして一命を取り留めたルディの三者に追われる身となったのです。
ドク夫妻の逃避行(Getaway)の始まりです。
スティーヴ・マックウィーン演じるドクは、先日紹介した映画『突破口!』の主人公のような、タフで頭の切れる悪のヒーロー的な男ではありません。刑務所生活の間中、奥さんとの愛の日々ばかりを夢想し続け、すっかり刑務所生活に嫌気がさして、その愛する妻に結果的に辛い思いをさせてしまう。しかも奥さんの不逞の原因を作ったのは自分なのに、そんな奥さんを許せないという身勝手さ。むしろアリ・マッグロー演じる奥さんキャロルの方が、度胸という点では遥かに座っているといって良い。
男の弱さ身勝手さと、女性の強さ度胸の良さ。この夫婦が仲違いしながらも手を取り合って逃げていく。犯罪者であること以外はどこにでもいそうなこの夫婦に、観客はいつの間にか感情移入してしまう。うまくできてますね。
私が個人的にこの映画の見どころだと思っているのは、スティーヴ・マックウィーンの銃捌きです。軍隊経験のあるマックウィーンは銃の扱いに慣れており、ドクの愛用拳銃コルト・ガバメントの扱いに少しの無駄もない。弾倉を装填し薬室に弾を送り込んで安全装置を掛けるまでの一連の動作に、無駄な動きがまったくなくしかも素早い。まるで剣の達人の演武を見ているかのようで、惚れ惚れしてしまいます。もちろんホルスターから銃を抜いて、構え、撃つまでの一連の動作にも無駄がなく素早い。日本で云えば三船敏郎か勝新太郎か、はたまた中村錦之助か片岡千恵蔵か。そうしたかつてのスターさんたちに匹敵する凄みと「美しさ」と、そしてカッコよさを感じさせるんです。あんなに美しく銃を撃つ人を、私は他に観たことがない。
マックウィーン恐るべし!
コルト社製45口径オートマチック拳銃、М1911。通称「コルト・ガバメント」
サム・ペキンパー監督はスローモーションを多様する監督としても有名ですね。ペキンパー監督の場合、通常スピードのカットとスローモーションのカットを編集で細かく繋ぎ合わせて、独特のリズムを映像で作り上げていくんです。例えば銃で撃たれるシーンは通常スピードで見せて、斃れていくシーンはスローモーションで見せる。こうしたリズムで死にゆく者の悲哀を情感たっぷりに見せていく。壁に銃弾が当たり次々と穴が開いていく。パラパラと漆喰が降り注ぐ音、カランカランと薬莢が転がる音。映像はスローに、音は通常スピードで。こうした見せ方がある種の芸術性をも生み出しているわけです。
日本の刑事ドラマ。『大都会』シリーズや『西部警察』シリーズでも、スローモーションが良く使われておりましたが、まあ、ヒドイもんでしたね。爆破シーンやらカーアクションシーンやらを、取りあえずスローモーションにしときゃカッコよく見えんじゃね?という安易な発想で使われているとしか思えない映像ばかりで、ペキンパーと比べて到底見るに堪えないもんでしたね。と言いながら結構見てましたけどね、私(笑)
ペキンパーを見て勉強しろ!と毎会ツッコミを入れながら観てたなあ。じゃあ観るなよって話ですが……(笑)
スローモーションを舐めるなよ!
さて、マッコイ夫妻は無事メキシコへの逃避行を成功させたのでしょうか?映画では小型トラックに乗った夫妻が、メキシコ国境を越えてトラックを走らせ遠ざかっていくシーンで終わっています。
普通に考えれば、夫妻は逃げおおせたという解釈になるでしょう。
しかしこれに「否」を唱えた方がおられました。
映画評論家の故・淀川長治氏その人であります。
淀川氏は云います。夫妻の乗ったトラックを、カメラは後方から、トラックが走り去っていき、段々小さくなっていく姿を撮り続けている。これは、実はこの先に警官隊が待ち受けていて、夫妻は銃撃を受けて死ぬのだということを暗示しているのだ。と主張したんです。
ハッピーエンドなら、車がこちらへ向かってくるカットで終わるはず。淀川氏はそう主張し続けておられたようですが、果たしてどうなのでしょうね?
正義感の強い淀川氏としては、悪を成した人物が逃げおおせてしまうというラストを認めることができず、それでこのような主張をしたのだ、とも捉えられる主張であり、やはりこれは、逃げおおせたとする解釈が正しいのではないかとも思えるのですが
果たして真相は?
みなさんならこのラスト、どう解釈されるのでしょうね?夫妻は無事逃げたのか、それとも……。
実際に御覧になって、考えてみるのも一興ですよ。