私はドラマや映画で、歴史を「勉強」しようとする態度は、あまり好みとしません。
ドラマや映画には、製作者側の強い意図が当然に入るし、誇張もあれば嘘もある。こんなのはある意味「当たり前」なんです。
本当に「勉強」したければ、それなりの書籍を読むべき。それも複数。
そういうことを重ねていくうち、自分なりの歴史観というものができあがってくる。
でもそれだって、絶対正しいわけではありません。自分の中の「史実」は、コロコロ変わって行きます。
歴史とはかくも深いモノです。
ドラマや映画を観た「くらい」のことで、分かった気になってんじゃねえ!
というわけで、映画『日本海大海戦』です。
こちらは円谷英二氏が特撮を手掛けた実質上最後の作品で、今年の春に、この作品で使用された戦艦三笠の13メートルのミニチュアが「発見」されたということで、特撮マニアの間で話題になっておりました。
それもあって、この映画を観たいと思い、TUTAYAへ行ったのですが、これが無い!
『日本海大海戦 海ゆかば』という映画なら、あるんです。でもこれは80年代になってから東映で製作された映画で、私が目当てとしている映画とは違います。
私が言っているのは69年に東宝で製作された作品で、監督は丸山誠治、特技監督に円谷英二。東郷元帥役は三船敏郎。これです。
TUYTAYAに置いてあるのは東映作品だし、80年代製作だし、監督は舛田利雄だし、違うんだよ!
東郷元帥役は三船……あっ、同じ三船敏郎だ……。
ええい!ややこしい!
円谷英二最後の作品という事で、映画史的にも貴重な作品です。随分前に一度観たきりだったので、是非もう一度観たいと思ったのですが……。
やはり、購入しかないか。
ああ、観たいなあ!
映画『トラ・トラ・トラ!』は日本軍による真珠湾攻撃を描いた映画で、日米それぞれの視点から描かれています。
アメリカ側の部分をリチャード・フライシャー監督が演出し、日本側の部分を舛田利雄と深作欣二が演出。当時分かっていた「表向き」の史実をかなり忠実に描いており、結果、日本側が有利に見えてしまう映画に仕上がっているのが面白い。
そのせいか、アメリカ国内では今一つ評判が良くなかったらしいですね。
真珠湾攻撃のシーンで一番印象に残っているのは、米軍基地に並んでいる米戦闘機に爆弾が落ちて次々と誘爆していくシーンで、爆破の勢いで戦闘機の一台が動いてしまうんです。そばにいた兵隊(おそらくスタントマン)が、本当にあわてて逃げ出そうとしているように見える映像が写ってる。
仕込みなのかホントのハプニングなのか、わからないところがミソで、とにかくCG全盛の今の映画では、逆に撮れないであろう迫力のシーンが目白押しです。
この映画、日本側監督は最初、黒澤明だったというのは、結構有名な話です。
しかし撮影開始から三週間後に降板させられてしまったんです。
理由については諸説あって、今一つはっきりしませんが、要は黒澤監督が、自分のやりかたに拘り、それがアメリカ側プロデューサーの意に沿わなかったということらしい。
アメリカ映画はプロデューサーが一番の権限を持っており、監督はプロデューサーの意に沿った映像を撮る職人のような立場なんです。
でも日本映画はなんだかんだ言っても、監督が一番エライ。しかも黒澤監督は「天皇」と渾名されるほどの隠然たる権威を、日本映画界で放っておりましたから、ぶつかるのはある意味当然だったのかも知れません。
もしも黒澤監督が撮っていたら、どんな映画になっていただろう。
考えるだに、ワクワクするような、
コワイような……。
映画『戦争と人間』三部作の監督、山本薩夫が共産党員だったというのも、これまた有名な話。
だからこの方の撮る映画は、基本、左翼映画です。
ですがこの方、エンタテインメント映画の撮り方が、実に上手い。
この方の撮った作品に『忍びの者』という時代劇映画があるのですが、これが面白い!エンタテインメントとして実によく出来てる。
でもそこは左翼ですから、権力者は基本的にすべて「悪」なんです。『忍びの者』では若山富三郎演じる織田信長が、拷問好きの残酷なサディストとして、徹底的に悪く描かれてる。演じているのが若山先生ですから、ホントに怖い(笑)キャスティングも絶妙なんです。
小憎らしいくらいに、上手い監督、なんですよねえ。
さて『戦争と人間』三部作です。
日中戦争からノモンハン事件までを描いた超大作で、本当は五部作の予定で、最後は東京裁判で財閥が解体されるまでを描く予定だったそうですが、制作会社の日活が極度の経営不振で製作費を工面できず、ノモンハン事件で唐突に終わってしまう。
まあ、左翼の方がこの時代のことを題材にしているのだから、どんな映画かは、推して知るべし、でしょう。
でもやはり、エンタテインメントとして、よく出来てるんだこれが。
切り口が実に分かり易い。軍と財閥の黒い陰謀で、日本は戦争への道を突き進んでいくという物語で、とにかく悪いのは軍と財閥といった、力を持ってる奴ら。一般庶民やシナ人、朝鮮人等はみんな可哀そうな
被害者。
実に分かり易い。
でも軍人が全部悪人なわけではなくて、高橋英樹演じる陸軍将校は、純粋に国を想うサムライのような軍人として描かれますが、この将校はノモンハン事件の日本側の司令官で、結局戦死しちゃう。
良い軍人は早く死んで、「悪い奴」ばかりが生き残るわけです。
ねっ、よく出来てるでしょ。
私は冒頭で、「ドラマや映画で、歴史を学ぶな!」と吠えましたが、この映画はある意味、戦後日本がどのような史観を、どのように負わされてきたのかということを知る上で、
良い「学び」となる、
かも知れません。
逆説的に、ね。
まあ、生真面目過ぎる方は観ない方がよろしいかも知れません。
そういう方がこの映画を観たら、きっと
憤死なさるでしょうから……。