風の向くまま薫るまま

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映画『狼よ落日を斬れ』 昭和49年(1974)

2015-08-11 21:21:25 | 時代劇





                       


まず、このタイトルがいけませんね。

このタイトルだと、野性味溢れる侍が、次から次と人を斬りまくるバイオレンス・アクション時代劇みたいなイメージを持っちゃいますけど、全然そういう内容ではありませんのでね。



原作は池波正太郎氏の小説、「その男」。

いかにも池波さんらしいタイトルですが、これでは映画としてはインパクトが薄い、地味すぎる。

もっと強烈なインパクトのあるタイトルにしようということで、こうなったらしい。



気持ちは分かりますが、これでは余りにも弾けすぎてます、全然内容が伝わりません。ダメなタイトルの典型ではないでしょうか。


池波さんは案の定、甚くご立腹だったそうです。契約上、口出しできなかったようで、

悔しかっただろうなあ……。




監督は大映時代劇の重鎮、三隅研次ということで、しっかりとした時代劇に成り立っています。74年当時といえば、時代劇の本数は激減し、制作費は削られ、かなり厳しい状況下での撮影だったと思われますが、それでも出来る限り、良い画を撮ろうと努力してます。

時代劇のロケが可能な風景も減っていたでしょうに、それでも京都中を巡り巡って出来る限り撮影可能なアングルを探し出したようで、実にバラエティに富んだ「良い」画になってます。

監督の意地が伝わってくるような画でしたね。







舞台は幕末。元幕臣の子、杉虎之助(高橋英樹)は、新撰組の沖田総司(西郷輝彦)、幕臣・伊庭八郎(近藤正臣)薩摩藩士・中村半次郎後の桐野利秋(緒方拳)らと友情を交わし合うが、時代は四人に苛酷な運命を与えていく……。





なんといっても緒方拳さんです、緒形さんが素晴らしい!

「人斬り半次郎」と渾名される男ですが、豪放磊落というか天真爛漫というか、人の懐にポンと飛び込んでしまう天性の明るさがあるんです。

その明るさと「人斬り」とのギャップ。それが半次郎の怖さであり、哀しさでもあるわけです。


緒方拳さんの演技は素晴らしいに尽きる。この映画は緒方さんでもってるようなもんです。英樹さんには悪いけどね。




高橋英樹演じる杉虎之助は典型的な時代劇ヒーローといった感じ。優等生な二枚目で、英樹さんが演じるにはピッタリですが、正直あまり面白味のあるキャラではありません。殺陣は素晴らしいです。そこは流石の高橋英樹。

近藤正臣の伊庭八郎は真面目な幕臣で、あくまでも幕臣として最後まで薩長と戦うため、函館まで落ち延びて行く。あまり感情を表に出さず抑え気味の演技で、少々地味な役回り。ただ以外と殺陣が上手いのにはビックリしました。ちょっとした発見でしたね。

西郷輝彦の沖田総司は冒頭の池田屋のシーン以外ほとんど見せ場がない。四人の中で一番出番が少なく、最後は病気で死んでいくという役どころ。目立たないんだよねえ、折角の沖田総司なのに。



やはり緒方さんの中村半次郎(桐野利秋)が一番面白い。主役は一見高橋英樹のようで、実は緒方拳なのじゃなかろうかと思わせるほどです。




映画全体としては、いくさの虚しさ、不条理さをそこはかと伝える作りになっていて、個々人としてとても良い人間である四人が、時代の流れに翻弄されてその関係性を引き裂かれていく。

四人の中で生き残るのは結局杉虎之助唯一人。伊庭は函館で流れ弾に当たりあっけなく戦死。桐野は初めこそ官軍の一員として意気揚々と江戸入りしますが、西郷隆盛の下野に従って鹿児島に下野し、賊軍の汚名を着せられたまま西南戦争で戦死します。

早々に武士を捨てた杉だけが、明治という時代を一人生きて行くことになる。



なんとも切なさがつのる幕切れです。




立ち回りもバラエティに富んでいるし、高橋英樹と緒方拳の両雄対決シーンは流石の見事さ。緒方拳さんというと、殺陣が特別上手いというイメージはあまり無かったのですが、元々新国劇という剣劇を主体とした舞台出身の方ですからね、そりゃ上手いわけです。

「剣劇役者」という言葉が頭に浮かびました。



もう、そんな人、

いなくなっちゃいましたねえ。





時代劇としては堂々たる仕上がり。傑作とまではいかないまでも、なかなかの良編だと思います。

それだけにこのタイトルが



なんとも、残念。











『狼よ落日を斬れ』
制作 三島与四治
    猪俣亮
    小林久三
原作 池波正太郎
    (「その男」)
脚本 国広威雄
    三隅研次
音楽 伊福部昭
監督 三隅研次


出演

高橋英樹

緒方拳

近藤正臣
西郷輝彦

松坂慶子

太地喜和子
本阿弥周子

内藤武敏
佐野浅夫

峰岸徹
和崎俊哉

藤岡重慶
今井健二

福田豊士
神太郎

坂上二郎

安部徹

田村高廣


辰巳柳太郎

昭和49年 松竹配給