「躑躅の二度咲き」
植物はみな春に花を咲かせるかというとそうでもない。暑い夏だったり涼風の吹き初めた秋だったり、雪の降る冬だったりする。命の盛りはなぜこうもまちまちなのだろう。
九月末、庭先にピンク色をした躑躅が狂い咲きした。豪華ではない。寧ろ控え目だ。それでも尚、植物の色香にはっとさせられる。
春に咲いて秋にも咲くから「二度咲き」とも「帰り咲き」とも呼ばれる。もう咲くことはないだろうとしていたものがもう一度咲く。目出度い。大関の地位を落ちもまた奮起してその地位に戻ってくる力士にはこれを讃えて「帰り咲き」の称号を贈る。でも「狂い咲き」は、咲いてはならないはずの年齢に達しているのに、ひょいと妙な色気が開花した場合、この揶揄表現が当て嵌められる。
命を持つものは普通は一度咲きである。一度に全エネルギーを傾注する。これが自然だ。 秋は春ではない。冬の準備に当てるべき時である。であれば人生の冬は次の春に向けての準備の時でもある。僕はこの朝、深い老いの海に沈んでいる僕に言い聞かせてみた。
人の命の盛り、花の時とはいつなのか。この世を生き切った時なのではないか。つまりこの世の卒業式当日に人に静謐で美しい大輪が咲き誇るのではないか。そういう仮定をしてみた。もしそうだったら楽しみが増す
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