「おばあちゃん、おばあちゃ~ん」と声がします。続いてわが家の玄関先に女性が現れました。手には豆腐を一丁抱えておられます。わたしは、「はあい」「はあ~いい」と応じました。「おばあちゃんはいらっしゃいますか?」と尋ねます。「おばあちゃんは死にました。もう三年前に。」と答えたら、「まあ、そうですか。鹿子ユリの球根をいただいたんです、前に。それが枯れてしまったので、またもらいに来ました。」とその女性は言いました。大事にしている鹿子ユリです。でも、はい、どうぞと言いましたら、その女性は豆腐を置いて、「じゃ」と言い、大きい球根の鹿子ユリから三本抜いて持ち去ってゆきました。あっという間の出来事でした。豆腐一丁が玄関先の敷石の上に置いてあります。何処の誰かも分かりません。もう6,7年前にもこんなことがありました。おばあちゃんも有無を言わさずだったかもしれません。花泥棒は泥棒に非ず。しかも、この女性は、ことわりをいれています。電撃殺法でした。
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