のすたる爺や

文明の果てなる地からのメッセージ

手袋を買いに

2014年02月14日 | 日記・エッセイ・コラム

 都心部では先週末同様の大雪になっているようです。

 交通がマヒして大変なバレンタインデーになっているようです。下心をお持ちの方には残念なバレンタインデーになってしまったことでしょう。

 

 雪かき作業用の手袋に穴が開いてしまったので、行きつけのブティックのワークマンに手袋を買いに行ってきました。

 

 新美南吉の児童文学にキツネの子供が手袋を買いに行く文字通り「手袋を買いに」というお話があります。

 多分今頃の寒い季節なんだろうな。雪の中に見える電球の明かりって暖かそうに感じるんだよな。などと物語のことを思い出し、そのうち子供に「お話」をしてやろう。最近のガキどもはキツネさえ知らないから、ここから説明せにゃならんかな?なんてことを考えながら雪道を下界に向かいました。

 

 途中、郵便局のATMに立ち寄ったらマスクをした見覚えがある人が出てきました。高校時代の先輩ですが、目が落ち込んで頬がこけてげっそりした顔になっていました。私より一学年上でしたが、ATMに憑りついた地縛霊のような風貌になっており、このまま夏の怪談シリーズに出演してもおかしくないような容姿でした。

 

 向うは私をすぐ察したようで、「よお、久しぶり!」と力なく挨拶してきましたが、昨日病院を退院してきたばかりの病み上がりだったそうです。言われなくてもそんな姿で、正規の手続きを経て退院してきたのか?霊安室から魂だけ退院してきたのか?どちらとも取れるほど衰弱した様子でした。

 

 ノロウィルスで病院に行ったらインフルエンザまでうつってしまったトレンド最前線。さしずめ我々の世代でいうなら浅野ゆう子と浅野温子がダブルキャストで出るドラマ並の豪華な感染。半分隔離されながら10日間入院していたそうです。

 大した病気もしないで生きてきたので当人も体力には自信があったらしいのですが、それが一気にすっ飛んでしまうほど精神的なダメージが大きいと申してました。

 

 お互い若くないのだから病気を甘く見ないようにしようと別れましたが、昨日までノロウィルスとインフルエンザで入院していた人が出てきたばかりのATMのボックスに入るのに躊躇しました。とは言え、私は気配りができるエゴイストなので、今すぐ郵便局を出てしまえばまだ駐車場に先輩がいるので気を悪くさせてしまいそう。カウンターに行って必要ないけどハガキ2枚買って、ATMは別の郵便局に行きました。

 

 新美南吉の本は甥が幼稚園の時に持って行ってしまい今は手元にないので、ブティックの帰りに図書館に立ち寄り絵本を借りようと思ったら貸し出し中。「学級閉鎖があったりで、いつもより子供向けの本が人気なんですよ。」

 一種の「怪我の功名」であれ、それはとてもいいことです。

 

 15-6年前ですが名古屋だぎゃぁ~に研修で行ったときに知多半島の半田町のやなべというところに足を運び新美南吉の生家や記念館を見てきました。「百姓の足、坊さんの足」にゆかりの光蓮寺にもお参りしてきました。

 

 記念館には新見南吉の言葉などがパネルで掲げられており、ノートに書き写しました。

 

 「ほんとうにもののわかった人間は、俺は正しいのだぞというような顔をしてはいないものである。自分は申しわけのない、不正な存在であることを深く意識していて、そのためいくぶん悲しげな色がきっと顔にあらわれているものである。」

 

 ソクラテスの「無知の知」を思わせるような深い言葉ですが、他にも

 

 「人間は皆エゴイストである。常にはどんな美しい假面をかむっていようとも、ぎりぎり決着のところではエゴイストである。ということをよく知っている人間ばかりがこの世を造ったらどんなに美しい世界が出来るだろう。自分はエゴイストではない、自分は正義の人間であると信じ込んでいる人間程恐ろしいものはない。かゝる人間が現代の多くの不幸を造っているのである。」

 

 「こんな風景は依然ちっとも自分の感興を起さなかったが、近頃はこんなありふれた身近なものを美しいと思うようになった。ごく平凡な百姓達でもよく見ていれば誰もが書いた事のないような新しい性格をもっており、彼等の会話にはどの詩人もうたわなかったような面白い詩がある。」

 

 宮沢賢治より人間臭いところが新実南吉の魅力的なところで、あるいは後世の人たちの取り上げ方がそうさせてしまったのかもしれません。

 

 雪が深々と音を吸収しながら降り積もっています。キツネの子供が手袋を買いに来ることはありませんが、玄関には自営業を営む猫たちが餌をもらいに来た模様です。

コメント
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