びわます賛歌 P.6

2011年10月19日 | びわます賛歌



【ビワマスの餌生物】 

4月上旬の餌を食べ始めて間もない体長3cmの稚魚
では、9割が陸上の昆虫で占める。主なな生物はユ
スリカで、その他にトビムシという水際に榎む微小
な昆虫が見出された。5月に体長5~6cmになると
餌の約半分が水中の生物となり、6月ではそれが7
割程度に増加。おもに食べられていた生物は、やは
りユスリカの幼虫で、カゲロウやトビケラ、カワゲ
ラといった水生昆虫やそれらの成虫も増加。

Haft.jpg

河川生活期のビワマスの食性は、体長4、5cmまで
の稚魚期では、まだ遊泳力が弱く流れの緩やかな岸
近くや淵に生息し、水面を漂うユスリカの成虫など
をおもな餌としている。体長4、5~7mの幼魚前
期では、川の流心に出て水面ではなく水中を流下し
てくる昆虫を活発に捕食しているという。

 

ところが、琵琶湖へ下ったビワマスの食性は、川の
ものとはまったく異なる。7月から9月の体長8~
11cmの幼魚後期では、ヨコエビ類と呼ばれる甲殻類
のみを食べる。琵琶湖にはアナンデールヨコエビ、
ナリタョコエビおよびビワカマカという3種のヨコ
エビ類が生息し、いずれも琵琶湖にしか分布してい
ない琵琶湖固有種であるが、ビワマスはこの中のア
ナンデールョコエビのみを食べる。琵琶湖にはこの
他にスジエビという甲殻類がたくさん生息している
が、これはほとんど食べられないという。10月から
翌年1月までの体長11~15mの幼魚後期から未成魚
では、やはりアナンデールヨコエビが9割で、その
他に魚のアユが食べられていた。35~40cmという成
魚では逆に9割がアユで占め、アユがおもな食べ物
になっている。



このように、湖中のビワマスは体長11cmまではほと
んどアナンデールヨコエビばかりを食べているが、
体長11cm超えるとしだいにアユなどの魚類を食べる
ようになり、おそらく20m以上ではアユなどの魚類
が中心の食性になるものと考えられている。これら
のビワマスの餌となっている生物はいずれもビワマ
スが生息する琵琶湖沖合に豊富に存在する。アユは
遊泳速度も遠く幼魚期のビワマスでは逃げられてし
まい捕食することができないが、体長11cmを超える
頃からアユを捕食できる遊泳力が徐々に備わってく
るのではないかと考えられている。また、同じヨコ
エビ類でも、ナリタヨコエビとビワカマカがまった
く食べられていなかったのは、この2種のヨコエビ
類の生息場所が沖合ではなく、琵琶湖沿岸部である
ためと考えられる。ただ、冬季には沖合の深層誠に
多数生息するスジエビをビワマスがなぜ食べていな
いのか、その理由についてはもう少し調査してみる
ことが必要である藤岡は指摘する。



【エピソード】 

 

ところで、ビワマスが大変美味しい魚であることは
あまり一般的には知られていない。近年の漁獲量が
年間20~40t程度と限られているからで、せいぜい
地場で消費される量だかだ。特に、5月から8月の
まだ生殖腺が発達していない時期のビワマスは、脂
が全身にのって極め付きの味と言わなければならな
い。これはビワマスの成魚がおもに淡水魚の王様で
あるアユを餌としていることに理由があると思われ
る。その身の色は薄いオレンジ色から濃い紅色まで
年によって大きく変わるが、これは、餌となるアユ
などの生息量と関係しているようである。すなわち、
アユの少ない年には身の色が赤く、多い年には色が
薄い傾向にあり、餌となるアユが少ないとビワマス
は大型の個体でも胃の中からはアナンデールヨコエ
ビが多く見出されるからである。身の赤い色はアス
タキサンチンと呼ばれる色素で、甲殼類におもに含
まれている。おそらく、ビワマス成魚はアユの少な
い年には幼魚期の 餌である小さなアナンデールヨ
コエピを食べている推測されている。



鰻の幼魚の成長に食餌性の解明は絶対的条件でそれ
はまた生態環境の「写植・反転」のDNAの履歴その
ものだ。この解明に成功できれば、1メートル近い
ビワマスが無駄な燃料を使わず、この湖国で、淡水
魚の大トロとして地場産業の1つになる日が近いと
考えられる。

【脚注及びリンク】

 -----------------------------------------------
1.「
淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科
3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成
長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「
ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「
ビワマス」国立環境研究所
12.「北湖深底部における底生動物の変化
13.「琵琶湖の固有種

----------------------------------------------- 

 

 


エリとビワマス

2011年10月17日 | びわます賛歌

 

サケ科魚類が川を下る時期やサイズは、種ごとにおお
よそ決まって降河サイズ いる。例えば、サケなら浮
上後間もない体長3~4cmであるが、サクラマスでは
9~14『サツキマスでは12~15m、イワナでは約15cm
であることがわかっている。これらの値と比較して、
ビワマスでは平均して5~7cmというのはかなり小さい
サイズで川下りする
。さて、このサケ科魚類が川下り
する時期(年齢)つまり、より進化した種類ほど早い
時期に小型で川を下り、海で成長するように進化して
いるというのだ
。ビワマスは、海ではなく湖に下るも
のの、もしそうであれば、ビワマスはサクラマスのグ
ループで最も進化した種類であるということになる。 

琵琶湖周辺の河川の水温が夏には20℃以上に上昇し、
サケ科魚類としてのビワマスには生理的に耐えられな
くなることがあげられる。そうであれば、イワナやア
マゴの棲む河川の上流域まで遡上し、そこで暑い夏を
やり過ごすことも一つの方法である。もう1つ琵琶湖
にある。琵琶湖は表層部を除いて、水深15m以下には
一年を通して水温15℃以下の水域が大きく広がってお
り、冬から春には、湖の長雨が冷やされ重くなった表
層水が深層水と混じりあうとともに、冷たい雪解け水
が琵琶湖にどっと流入して沖合の深層誠に流れ込み、
溶存酸素を大量に送り込んでくれる。深い水域でも十
分に酸素が存在するのである。これが琵琶湖より南に
位置する湖では、冬になっても十分な水の混合が起こ
らず、溶存酸素が供給されないために深層誠では酸素
がほとんどないか不足状態だが、琵琶湖では沖合の水
温の低い深層誠に餌となる甲殻類や魚類が多く生息し
ているから、大きく成長できることがビワマスの行動
を決定した理由と考えられている。 

稚魚期=体長2.5~4.5cmで、鱗や朱点がまだ見られな
 い。体側にはパーマークが鮮明に見られる。おもに
 流れの緩やかな川の岸付近や淵に生息する。
幼魚前期=体長4.5~7cmで鰓耙数(さいはすう)が成
 魚と同数(17本以上)に達するとともに体表が鱗で
 覆われ朱点が増加する。体側が少し銀白色になり始
 める。遊泳力が増して川の瀬に分布した後、降雨な
 どをきっかけに湖への活発な降下行動を示す。
幼魚後期=体長7~12cmで、外部形態が完成するととも
 に、体表がグアニンの沈着により銀白化してパーマ
 ークが見えなくなる。多くは湖に降下して沖合の深
 層域で生活を始める。一部の個体は河川に残り成熟
 する。 
未成魚=体長19~20cmで、湖の沖合を中心に生活し、
 河川に残留した早熟雄を除き、まだ成熟はしない。
 朱点が消失する。
成魚=体長20cm以上で、成熟した個体はおもに9月か
 ら一月に河川に遡上して産卵する。一部の個体は、
 6月から7月の河川が増水した時期に遡上し、淵な
 どで夏を過ごし、秋には産卵する。産卵後は、雌雄
 とも死亡する。

ビワマスの河川生活期から湖へ降下する時期を中心に
産卵までを大まか5段階に藤岡康弘は区分している。

    川からの降下時のサイズ

【エピソード】 

 

琵琶湖には河や湖沼・内湾で、よしずや竹垣を魚道に
迷路のように張り立てて、魚を自然に誘導して捕らえ
る定置漁具の魞(エリ)が、湖岸から沖に向けて張ら
れたカラ傘のように見える左右対称型のエリのたたず
まいは、琵琶湖畔を訪ねる人びとに風情を感じさせる。
湖岸に優美な姿を見せる沖出し型のこうした「うみエ
リ」と呼ばれるが、河口内のよどみや内湖に張られる
「川エリ」も古くからあるという。


3世紀に高句麗の農耕移民によっても稲作技術がもた
らされた。この高句麗から渡来した水稲農耕移民は、
米と膾をセットとした食物体系を身につけ、フナなど
を獲るエリ技術と稲作技術をあわせて移人することに
なったといわれ、膾は手頃な大きさの魚を姿のまま塩
と蒸し米=御飯で漬物とし、発酵させたもので、中国
の北支で2世紀頃、すなわち後漢(AD25~220年)の中
頃までに作り方ができあがったもの。気温の低い黄河
以北の水稲農耕文化の中で生まれた貯蔵用発酵魚で、
黄河以南、特に揚子江周辺あるいはそれ以南では気温
が高いために同様の作り方をしても「シオカラ」ない
し魚醤油状になり、膾のような魚体形のままの発酵魚
にはなりえない。

 【脚注及びリンク】

 -----------------------------------------------
1.「
淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科
3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成
長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「
ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「
ビワマス」国立環境研究所

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びわます賛歌 P.5

2011年10月15日 | びわます賛歌




【海を忘れないスモルト化】

さて、ビワマスの体色が銀白色になる現象は6月から
7月に急速に進み、8割を ビワマスの 超える個体
で体色が銀白色になるという。このことがサクラマス
やギンザケなど降海型のサケ科魚類のスモルト(銀毛)
化と呼ばれる現象と同一なのかどうかはまだわからな
というが、とりあえず体色が銀白色となってパーマー
クの見えにくくなった個体をビワマスのスモルト化と
呼んでいる。

 

いっぽうアマゴは、7月でも体側にはパーマークが鮮
やかに見えていて、銀白化の兆候は認められなかった。
しかし、それ以後も続けて観察していくと、9月の終
わり頃から変化が現われ始め、12月にかけて’スモル
トと呼べる個体が出現する。このアマゴとのスモルト
の違いは、ビワマスのそれと比較すると体色は両種と
も鮮やかな銀白色になることは同様であったが、背鰭
や尾鰭の縁がアマゴでは墨を塗ったように鮮明な黒色
なのに対し、ビワマスではそれほど濃くならないとい
う違いが認められた。体の肥り具合を示す指標の「肥
満度」と呼ばれる数値は、ピワマスとアマゴともパー
に比べスモルトは低下しサクラマスのスモルトと同じ
変化を示しすという。
 

 

スモルト化の時期や背鰭の黒色化に少し違いが認めら
れるものの、多くの点で両種のスモルトはよく似てい
て、この時点ではビワマスの。スモルト化はアマゴや
サクラマスのスモルト化と同じ現象と考えて可笑しく
ないという。サクラマスでは、パーからスモルトヘの
変化が孵化後1年ないし2年経過した3月頃から見ら
れ、スモルトは4月から6月にかけて川を下り海での
生活を開始する。これに対して、ビワマスのスモルト
が孵化後半年ほどの6月から7月に出現し、アマゴの
スモルトが9月から12月に現われるという差異が観察
されている。

 Life Cycle of Salmon

 

成熟と死の関係は、サケ科魚類の中にもいろいろなタ
イがあり、
川の最上渡部にいるイワナでは、サケとは
異なり雄も雌も産卵後に死ぬことはない。ニジマスも
このタイプ。いっぽう、河川型のアマゴやヤマメでは
2回あるいは3回目の産卵の後に死ぬものが多い。同
種でありながら、これが降海型のサツキマスやサクラ
マスになると1回の産卵で死ぬ。ビワマスの雌は一度
成熟するとすべて死ぬが、雄の中の孵化後1年で成熟
する早熟雄は死なないが、翌年に再度成然したときに
死ぬ。また、孵化後2年以上たって大きく成長した雄
は、成熟すると死んでしまうという。こう見てみると
環境の変化が深く関わっているように見えるが、その
生理的なメカニズムはよくわかっていないのだ。

【エピソード】



水産とか生物生態などとはもともと無縁だったのだが
琵琶湖・淀川水系汚染問題に関わると同時にいやおう
なしに水産生態知識が必要になる。また、前の職場で
も鮎の養殖経営している息子がわたしの上司であった
り、工場長の専門大学が北海道大学の水産学部(出身
地は大阪)であったりといくらでも切り口が広がるも
ので、田中豊一氏(故人)と二人で埼玉水産試験場に
でかけ、ナマズの養殖など調査などもしたもので、皇
太子がナマズ博士であることを知ったりもした。でも
このグループで釣りを趣味とする会員はひとりいない
ように、フィールドワークには疎い。疎いが琵琶湖に
面する河口に行くと、それはそれで、一旦、透明で澄
み切った水中を魚たちが遊泳する情景に見入ってしま
うと離れなくなる。因みに、50年前は瀬田シジミが
この松原、磯でもたくさん水揚げされていたと久保祐
夫氏(故人)が話していたことをいまも懐かしく思い
出される。話は飛躍するが、この問題にかかわる頃は
当然、クジラが古代牛の海進態などはまったく知らな
かったほど素人だった。

【脚注及びリンク】

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1.「淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科

3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「ビワマス」国立環境研究所

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醒ヶ井の2つの鱒

2011年10月14日 | びわます賛歌

 

 

 

醒井養鱒場で払暁

醒井養鱒場は、滋賀県米原市にある、県立淡水魚養
殖・研究施設。滋賀県には滋賀県水産試験場が彦根
市にあるが「琵琶湖漁業が(漁業法で)海の扱い」
となるため、滋賀県の内水面水産試験場と位置づけ
てもよい。またその規模は、東洋一を誇るといわれ
る。

1878年(明治11年) 琵琶湖に棲むビワマスの養殖の
          目的で県営孵化場を設置する。
1879年(明治12年) 現在地に移転する。
1885年(明治18年) 民間に払い下げる。
1929年(昭和4年)  再び県営、滋賀県立水産試験場
                   付属醒井養鱒場となる。
1977年(昭和52年) 滋賀県醒井養鱒場となる。
1992年(平成4年)  採卵場を新築。水源地の集水槽
                   内に自動除塵設備を整備。
1993年(平成5年)~1994年(平成6年)
          養魚用水路に自動除塵設備を整
                   備し稚魚池親魚飼育池および餌
                   付池に自動給餌機を設置。
1997年(平成9年)  老朽化した飼育池を解体、排水
                   処理施設、研修施設、渓流魚観
                   察池および渓流釣り体験池等を
                   新設。
2000年(平成12年) 滋賀県水産試験場醒井養鱒分場
                   となる。

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醒井渓谷の豊かな水を利用し、ニジマスを主に、ア
マゴ・イワナなど清流のみでしか生息することがで
きない数々の淡水魚が生育されており、総面積は約
19 haである。大小80あまりの池があり、ニジマスの
数に関しては約160万尾といわれる。場内には釣り堀
や料理店があり、釣り堀で釣った鱒を料理店に持ち
込んで、調理してもらうことも可能。場内には、清
流飲用所もある。なお、ここで養殖されたニジマス
は、JR米原駅の駅弁である「元祖鱒寿し」の食材と
しても使用されている。

醒井養鱒場では、ビワマスの人工孵化、養殖・放流
に関するさまざまな研究が明治から昭和の初期にか
けて行われていたが、1877年(明治10)に米国から
日本に北米原産のジマスが導入され徐々に国内に広
まってくると、醒井養鱒場でもいち早くニジマス養
殖に着手し、民間への普及なども含めて事業はニジ
マスの占める割合が大幅に増加していった。そのた
め、ビワマスの研究はしだいに片隅に追いやられた
状況となっていく。ニジマスは飼育が容易で成長も
早く、原産地のアメリカでさまざまな研究が行われ
ていたことから、その情報が多くもたらされていた
ことも影響した

1982年(昭和57)4月に醒井養鱒場長として伏木省
三が伏木場長赴任され、場内の雰囲気が大きく変わ
ることになる、彼は彦根市のる滋賀県水産試験場で
アユの研究をずっと続けてきた経歴を持つ、アユは
夏から秋にむかって昼間の時間(日長時間という)
が短くなると卵が大きく発達して成熟が進むが、そ
の成熟現象と日長時間との関係を詳細に研究され成
果をあげられた研究者
である。

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また彼は「ニジマスなどの生産販売は基本的に業界
に任せるべきもので、醒井養鱒場は業界に寄与する
研究成果を上げることである」というもので、研究
費が少ない中でもなんとか必要なものを順次そろえ
ていく。琵琶湖に生息するビワマスは琵琶湖漁業に
とって重要な漁業資源となっていることから、ビワ
マス資源を増やすために必要な基礎的な知見を明ら
かにする研究が本格化する。



【ビワマスとアマゴ】

1957年(昭和32)に出された彼の論文「桜鱒と琵琶
鱒」によれば、ビワマスは関東から九州の太平洋側
の沿岸と河川および琵琶湖に分布するサケ科魚類で、
アマゴと呼ばれている魚と同一種であり、河川に生
息するものをアマゴと呼び、海あるいは湖に生息す
るものをビワマスとしていた。ビワマスは琵琶湖ば
かりではなく西日本の太平洋沿岸海域に広く分布し
その河川型がアマゴであるとされた。また、大島正
満は、体の表面に朱色の斑点があるピワマス(アマ
ゴ)とそれがないサクラマス(ヤマメ)の分布が、
それぞれ太平洋側と日本海側に明瞭に分かれている
ことを
発見し、この分布の境界線が「大島線」とも
呼ばれている。滋賀県水産試験場の大先輩であり、
後に国立科学博物館で活躍する『
日本のコイ科魚類』
(資源科学研究所、1969
年)の著者中村守純さんも
同じ意見であったという。

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これに対して、福井県のアマゴを研究している加藤
文男はアマゴとビワマ
スの鱗にできる環状の「隆起
線」と呼ばれ
る模様のでき方や内臓の消化器官であ
る幽門影の数に違いがを発見し、琵琶湖に生息する
ピワマスは、鱗の隆起線が周辺部でもほぼ完全に一
周しているが、アマゴではこれが途中で途切れてい
ること、また幽門垂の数は琵琶湖に生息するビワマ
スでは46~77であるがアマゴでは32~58と、数が重
なってはいるもののビワマスで数の多い傾向がある
というものであった。また、大阪の在野の研究者で
ある吉安克彦は、アマゴとビワマスの血液蛋白質の
成分を電気泳動という方法で分析して両者の違いを
見出し、両者が異なった種とまでは言えないまでも、
少なとも亜種のレベルで差異があると考えた。「ア
マゴを琵琶湖に放流し、これが育成肥大すればビワ
マスになるという理屈ならナスビの苗にウリがなる
はず」(吉安、1987)と、それまでのビワマスとア
マゴの分類学上の位置づけに異議をとなえているが、
ビワマスは分類学上の位置付けがまだ不安定な状態
で、その生態がほとんど未解明であったという(『
『川と湖の回遊魚 ビワマスの謎を探る』藤岡康弘』)。

【エピソード】

  

魚類の水温変化の影響は大きい。河川水温の上昇が
ビワマスの自然再生産におよぼす影響も心配される
が、調査の結果, 2008年度は2005年度に比べてビワ
マスの産卵量が少なく産卵盛期が短期間に集中した
とある。2008年度は暖冬のため河川水温が2005年度
と比べて高く推移したことにより稚魚の浮上が早く
且つ短期間に集中している。今後更に温暖化による
河川水温の上昇が進行すればビワマスの再生産に何
らかの影響が生じることが懸念されている。



思えば、30年前、中国プラント建設にあたり中国人
を案内し醒ヶ井でで鱒料理を注文したものの、天ぷ
ら、塩焼き、甘露煮などに箸をつけたものの刺身に
は箸をつけることはなかった。ところが、いまでは
和食ブームで刺身が当たり前になりつつある。そん
なことを考えながら今夜は紹興酒のオンザロック。
うっまぁ~い。

【脚注及びリンク】
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1.「淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科

3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「醒ヶ井養鱒場
9.「ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7

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びわます賛歌 P.4

2011年10月13日 | びわます賛歌

 

【日本の湖のサケ科魚類】

 

ヒメマスとミヤベイワナ

サケ科魚類を生活の仕方から見ると、降海型・河川型
および湖沼型の三つのタイプに分けられる。その中で
湖沼型と呼ばれる湖に生息するサケ科の仲間はビワマ
スに限ったものではなく、世界的に見てもヨーロッパ
や北米の湖沼にはイワナやベニザケの仲間などが多く
生息している。日本でも、北海道の湖にはベニザケの
湖沼型であるヒメマスが阿寒湖とチミケップ湖に自然
分布し、阿寒湖から支笏湖へ1894年ごろ移植。1902年
には支笏湖から青森県の十和田湖へ移植されたものが
定着。これらの湖以外にも、北海道の洞爺湖や栃木県
の中禅寺湖などにもヒメマスが生息しており、いずれ
も移植されたものである。ヒメマスの移植が案外成功
しやすいのは、その餌となるものが主にミジンコなど
の動物プランクトンに起因している。うに思われるが、
ヒメマスの生息する湖に同じく動物プランクトンを食
べるワカサギが放流されると、餌が不足してヒメマス
の成長が著しく遅れるとも言われている。



北海道の然別湖には、ミヤベイワナと呼ばれるイワナ
が自然分布している。このミヤベイワナはイワナ属の
一種のオショロコマの仲間であるが、口の奥にある鰹
杷と呼ばれる餌を濾し取る櫛状の突起の数がオショロ
コマより多く、別種までには分化していないが、変異
が大きい。別亜種に分類されており、然別湖だけに生
息する固有亜種とされている。鰹杷数が多くのは、ベ
ニザケと共通した特徴で、餌となる魚類が少ない然別
湖の環境にミヤベイワナが適応して動物プランクトン
を食べるように進化した結果ではないかと考えられて
いる。

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クニマス

秋田県の田沢湖には、1939年までクニマスと呼ばれる
ヒメマスの仲間が生息していた。クニマスは幽門垂(
ゆうもんすい)と呼ばれる消化器官の数が多い点など
ヒメマスとは異なった形態をしていたとされ、本種も
田沢湖だけに棲む固有亜種である。ところが、1940年
に発電用水確保などのため、玉川温泉の温泉水が流れ
込む玉川の水を田沢湖に流入させたところ、強い酸性
水の
ため、田沢湖の魚はクニマスも含めてほとんど絶
滅。クニマス絶滅から半世紀以上を経た現在でも酸性
度を中和するための石灰岩の投入いているが、未だに
田沢湖の水は酸性に偏より、酸性水に強いウグイしか
生息していない。

長野県にある諏防潮には、かつて「アメ」と呼ばれた
サツキマスの湖沼型が生息していたと言われている。
しかし、現在は水質の悪化などでその姿はほとんど見
られないという。ダムによって河川が堰き止められ人
工的にできたダム潮には、サケ科魚類が生息すること
が知られていることから、琵琶湖以西のダム潮にもサ
ツキマスやサクラマスが棲息している可能性がある。

以トのように琵琶湖より北に位置する湖沼には、多く
の場合サケ科魚類が生息している。これは基本的に水
温などの生息条件による制限によるものと考えられ、
湖に固有のサケ科魚類という視点で見ると、然別湖の
ミヤベイワナ、田沢湖のクニマスと琵琶湖のビワマス
だけであり、3種のうちクニマスー種が、人間活動に
よりすでに絶滅していることは、大変残念なことであ
る。


【エピソード】

 

【脚注及びリンク】
-----------------------------------------------
1.「淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科

3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日

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