【淡水と海水】
魚にとって川から海へ、あるいは海から川へ移動することは、
何の障害もないように思われるが、海なら海、川や湖なら川
や湖で一生を過ごす魚の種類の方が圧倒的に多い。金魚(コ
イ科フナ属)が海で大きく育たない、タイが琵琶湖で育つこ
ともない。それでは水魚と海水魚の差異とはなんだろうか?
海水には、塩分の塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化カル
シウムなどイオンと呼ばれる水に溶ける物質があり、その量
は、海水1リットルあたり33~37gほど。逆に、川や湖など
の淡水には、塩類がほとんど溶けず、琵琶湖であれば1リッ
トルの水に塩分はわずか 0.02gという量だ。ところで魚の
体内にもナトリウムやカルシウムなどさまざまな塩分が含ま
れているが、これらの濃度は、厳密に一定の範囲に調節され
保たれている。この濃度は、生命が生まれた古代の海の塩分
濃度か反映されている。この濃度が何らかの原因で一定範囲
を超えれば魚は死んでしまうが、魚の血液中には淡水魚も海
水魚もナトリウムが約150~160g という濃度で保たれている。
1リットル当たりの塩化ナトリウムにすると約9gほどにな
り、ピワマスが生活する琵琶湖の1リットルには、塩化ナト
リウムがわずか約0.02gしか含まれていないので、塩分濃度
は体内が濃く体外は薄い。体表(主に鯉)を境に塩分の濃度
差が生じ、体外から体内に水が侵入しようとするカ(浸透圧)
が生じる。この浸透圧の関係で水が体内に入ってくる。ビワ
マスは体内のナトリウム濃度を一定に保つため、尿として水
を体外に出しながら、水に含まれているわずかなナトリウム
を鰹から絶えず取り込む。海水1リットルにはナトリウムが
28g ほど含まれるが、魚の体内よりずっと高濃度。このため
海に棲む魚では、淡水中とは逆に塩分濃度は体内か薄く体外
(海水)か高くなり、体内から体外へ水か出ていこうとする
力(浸透圧)が生じ、体内の水はどんどん奪われて脱水状態
になっていく。これを防ぐため、海水魚は海水を飲んで腸な
どの消化管から水を吸収し、余分なナトリウムなどを鯉から
絶えず排出する。
魚の体内はナトリウムや塩素などの濃度が海水の約3分の1
で、淡水魚と海水魚ではまったく逆の調節をする。金魚など
の淡水魚やタイなどの海水魚ではそれぞれ淡水と海水で生活
する調節機能しか備わっていない。このため、例えば金魚が
海で過ごすこともタイが琵琶湖で育つこともできないが、川
から海に下るサケの稚魚や、産卵のために生まれた川に戻っ
てくる親ザケには、淡水から海水、あるいは海水から淡水に
適応するための機能を変化させる能力が備わっている。また、
海水と淡水の混じる汽水と呼ばれる水域に棲むボラやスズキ
などは、短い期間であれば淡水と海水の両方の環境で生活
できる能力をもっていて、サケの稚魚は、淡水の川から海へ
難なく降下しているが、淡水と海水という環境の間には、塩
分濃度の大きな違いによって想像以上の壁が存在するのだ。
ビワマスは淡水魚の王者。しかし、遊漁ルールは守ろうと自
問する。
【脚注及びリンク】
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1.「淡水魚辞典 サケ科」
2.「WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科」
3.「イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程」
4.「日本魚類学会」
5.「魚類学(Ichthyology)」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
資源管理を考える」清水宗敬
7.「田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
梨県西湖での発見」2011年2月22日
8.「醒ヶ井養鱒場」
9.「ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「ビワマス」国立環境研究所
12.「北湖深底部における底生動物の変化」
13.「琵琶湖の固有種」
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