ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

グレートビューティー

2014-10-10 06:35:38 | 映画のレビュー
映画「グレートビューティー 追憶のローマ」を観に行きました。
以前から、公開を楽しみにしていた映画--ローマの社交界でも著名な初老のジャーナリスト、ジェップは華やかでありながら空虚な日々を送っているのですが、その彼にもとに届いた、以前の恋人の悲報。 彼の心に去来する過去と現在、再び頭をもたげてきた小説を書くことへの情熱--などを描いています。

ただ、映画自体は、やや長すぎ、退屈したかも。全体に一本、筋の通ったストーリーがあるわけでなく、エピソードの羅列や、映画の視点がジェップだけでなく、回りの人物にもちらちら飛ぶため、観ていて落ち着かないのです。

といっても、この映画の価値が下がるわけでなく、さすが幾多の映画賞を総なめにしただけのことはある! という力作。観終わった後も、余韻が長く残りましたし・・・(大体、私は「老人」をテーマにした映画が、昔から好きなのです。ヴィスコンティの「家族の肖像」は老教授の孤独が、これもローマの豪奢な邸宅を舞台に描かれていましたし、フランズ映画「田舎の日曜日」も心に残る名画の一つ)。 何といっても、主役ジェップを演じる俳優の名演が素晴らしい!  現状に倦んでいながら、静かな諦念とともに、泡のようなうたかたの日々を送る初老の男の内面を腐りかけた(?)ような色気とともに演じています。


ローマはご存じのように「永遠の都」。けれど、この映画はそんな観光案内的なありきたりな街の顔でなく、普段は見せない深淵のような、秘密を描き出しています。 鍵を幾つも持つ男に案内されて行く、「ローマで一番美しい屋敷」--無数の扉の向こうには、絢爛たる部屋々が広がり、バチカン宮にあるような巨大な大理石像が横たわっていたりなどします。 蝋燭の光に照らされた、部屋の美しさ!  本当に、ローマには観光客には決して見せない、一部の住人しか知らない隠された美が、まだまだ眠っているのかもしれません。

ジェップが若い頃書いた小説に感動した104歳の修道女が訪れるシーンも、深い印象を残します。半分、あの世へ行っているのでは? という即身仏のような修道女がいなくなったと思ったら、ジェップの部屋に床で眠っていたり、朝焼けのベランダに渡り鳥(白鳥のような鷺を思わせるような大きな鳥)が沢山とまって、修道女とともにそれを観る場面の、シュールレアルスム絵画のような美しさ・・・。


面白いと一口では言えない映画ですが、凡庸さなど微塵も感じられず、美酒を飲んだかのごとき味わいが深く残ること間違いなし。 人生の午後に達した、すべての人に。
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伝言板

2014-10-09 16:16:31 | ある日の日記
ブログをgooに引っ越しいたしました。
これから、少しずつ整えていこうと思っています。
どうぞ、よろしく!
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刺繍のある風景

2014-10-06 16:41:58 | アート・文化

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母がお友達の刺繍作家、森美智子さんから頂いた刺繍されたテーブルクロス2点です。上の写真の作品は、薄い緑の地にほどこされた白い花が、素晴らしく繊細な仕上がり!花びらの白さにも陰りの部分が、しっかり表現されていて、匂い立つような美しさです。 葉の部分はくりぬいてあるのですが、その部分にも細かな編み目が仕立ててあり、全体にエレガンスが感じられるのですね。

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そして、もう一点はこれ。薄いクリーム色の地に、オレンジがかった茶の糸で、細かな文様が編みこまれていて、綺麗です。手のこんだ緻密な作品ながら、ふんわりとした温かさが感じられるのは、丹念に仕上げられた手作りということもさることながら、作り手の森さんの人柄によるものかもしれません。

フランスにしろ、ベルギーにしろ、そしてアメリカのキルトにいたるまで、刺繍は脈々と受け継がれてきた手工芸。絵画作品などでも、縫い仕事をする女性の姿は幾度も描かれてきましたし、アメリカの開拓時代にも、村の女性が一か所に集まって、みんなで大きなキルト作品を作る伝統もあったもの。 わたしは、自分がとんでもなくぶきっちょなせいか、こうしたことができる女性を凄いなあ~とうらやましく思うのであります。 庭仕事が巧みな人を「緑の親指」というなら、こうした人を「魔法の手」と言っていい?

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MとNの文字

2014-10-06 08:32:19 | カリグラフィー+写本装飾

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左がMの飾り文字で金箔を貼ったところ、右がNの飾り文字で金泥を塗ったところです。これから彩色をしなければならないのだけど・・・(芦屋の教室の作品展に出す予定)。

よく見えませんが、左の方は中央に獅子が三頭おり、紋章も入っています。 う~ん、これがうまくできればいいんですけどねえ・・・。 でも、少し羊皮紙の扱いに慣れてきたかな? それだけでもうれしいです。

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そして、これはアマゾンで注文したのが、米国から届いた本(結構、高かった・・・。トホホ)。写本の説明と原画が、カラーで載っています。

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左側の細密画はまだまだ無理だけど、右側の文章と花の飾りは、時間があったら、模写してみたいなあ。

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作家の家

2014-10-02 19:10:05 | 本のレビュー

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作家の家--それは、一つの詩だ。現実と想像世界のあわいに存在する夢だ。そして、作家が、みずからの夢を具現するために、ひっそりと隠れ住む城でもある。

西村書店から出版された写真と文章からなる、この重厚な一冊・・・・実を言えば、購入したのは、もう7.8年近くも前になるかと思われるのだが、文章が高尚すぎてとっつきにくく(著者は、フランスやイタリアの「ヴォーグ」誌の編集長を務めたという)、きちんと目を通すこともなく、本棚の片隅で眠り続けていた、という経緯がある。

それを、数日前、ほんの気まぐれから頁をめくったとたん、世界的な作家たちの生きた空間が織りなす香気のようなものに、惹きつけられ、耽溺することに。 午後の日差しが窓ごしに長い影を机の上に描くのを感じながら、感覚的喜びにひたるのも、久しぶりのことだった。

さて、この書物に取り上げられている作家(世界的、とか文豪という形容詞がつくレベルの)は12人。けれど、名前や著作を知っていたのは、その半分ちょっと・・・というのだから、案外本を読んでいないのかもしれない。  ヴァージニア・ウルフ、ヴィタ・サクヴィル=ウェスト、マルグリット・ユルスナール、カーレン・ブリクセンといった20世紀を彩る綺羅星のごとき女流作家たちはもとより、ヘミングウェイ、ヘルマン・ヘッセ、ガブリエーレ・ダヌンツィオ、アルベルト・モラヴィアといった面々の名も見える。

ヴァージニアとヴィタには、個人的に興味があったので、最初に読むことに。「灯台へ」や「波」など、‘意識の流れ‘と呼ばれる手法を用いた緻密で、心理小説的な作品で知られるヴァージニア。彼女の暮らしたサセックス州のモンクス・ハウスは、その小説世界にも似たデリケートな風格を保っていると感じられた。 だが、この居心地の良い巣のような場所があってさえも、ヴァージニアは、精神の異常をなだめることはできなかったと思うと、何ともいえない気持ちになってしまう。天才としか呼びようがない、華麗な才能とひきかえにするかのように、ヴァージニアは、少女時代から精神的な混乱に悩まされ続けていた。 そして、ロンドン空襲が激しくなった第二次世界大戦中、自宅のそばを流れていた小川ウーズ川に身を投じて死んだのだった・・・夫レナード・ヴルフにあてた感動的な手紙を残したまま・・・。

さまざまな文豪の家が生前の家具や調度品が飾られたまま、読者の目に突き付けられているのだが、正直、「住み心地がよさそう」「素敵な家」と思うような場所は、ほとんどない。 そんな感想を語るには、一つ一つの家があまりに堂々としていて、作家たちのアトモスフィアや追憶に満ち満ちている。

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その中で、マルグリット・ユルスナールが住んだという北米のメイン州の島にある家は、本当に居心地がよさげにみえる。他の作家が19世紀生まれ、20世紀前半に活躍した人々が多いのにひきかえ、ユルスナールは1903年生まれ、1987年没という「近さ」ゆえかもしれない。 世界的な作家というより、ニューヨークの編集者が週末訪れる別荘のような、素朴で飾り気のない佇まい、簡素で上品なインテリア・・・だが、書斎の机の上には、古代ローマの頭像が置かれていて、この作家が古典・古代に膨大な知識を擁する人物であったことを思い起こさせる。北の海風に洗われ、荒々しい岩を佇立する海岸も見える島の家で、作家ははるか遠く、ローマの神殿や大理石の柱頭を見はるかしていたのだろうか。

二十年ぶりに、ユルスナールの「ハドリアヌス帝の回想」を読み返したくなった。このメイン州の家を見た後なら、作家が何故かくも古代ローマ期の皇帝の内面を深く掘り起こせる著作をものしたか、その創造の源泉にまで降りていけるかもしれない・・・。

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