以前から、公開を楽しみにしていた映画--ローマの社交界でも著名な初老のジャーナリスト、ジェップは華やかでありながら空虚な日々を送っているのですが、その彼にもとに届いた、以前の恋人の悲報。 彼の心に去来する過去と現在、再び頭をもたげてきた小説を書くことへの情熱--などを描いています。
ただ、映画自体は、やや長すぎ、退屈したかも。全体に一本、筋の通ったストーリーがあるわけでなく、エピソードの羅列や、映画の視点がジェップだけでなく、回りの人物にもちらちら飛ぶため、観ていて落ち着かないのです。
といっても、この映画の価値が下がるわけでなく、さすが幾多の映画賞を総なめにしただけのことはある! という力作。観終わった後も、余韻が長く残りましたし・・・(大体、私は「老人」をテーマにした映画が、昔から好きなのです。ヴィスコンティの「家族の肖像」は老教授の孤独が、これもローマの豪奢な邸宅を舞台に描かれていましたし、フランズ映画「田舎の日曜日」も心に残る名画の一つ)。 何といっても、主役ジェップを演じる俳優の名演が素晴らしい! 現状に倦んでいながら、静かな諦念とともに、泡のようなうたかたの日々を送る初老の男の内面を腐りかけた(?)ような色気とともに演じています。
ローマはご存じのように「永遠の都」。けれど、この映画はそんな観光案内的なありきたりな街の顔でなく、普段は見せない深淵のような、秘密を描き出しています。 鍵を幾つも持つ男に案内されて行く、「ローマで一番美しい屋敷」--無数の扉の向こうには、絢爛たる部屋々が広がり、バチカン宮にあるような巨大な大理石像が横たわっていたりなどします。 蝋燭の光に照らされた、部屋の美しさ! 本当に、ローマには観光客には決して見せない、一部の住人しか知らない隠された美が、まだまだ眠っているのかもしれません。
ジェップが若い頃書いた小説に感動した104歳の修道女が訪れるシーンも、深い印象を残します。半分、あの世へ行っているのでは? という即身仏のような修道女がいなくなったと思ったら、ジェップの部屋に床で眠っていたり、朝焼けのベランダに渡り鳥(白鳥のような鷺を思わせるような大きな鳥)が沢山とまって、修道女とともにそれを観る場面の、シュールレアルスム絵画のような美しさ・・・。
面白いと一口では言えない映画ですが、凡庸さなど微塵も感じられず、美酒を飲んだかのごとき味わいが深く残ること間違いなし。 人生の午後に達した、すべての人に。