ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

フランス幻想小説傑作集

2013-11-22 21:30:46 | 本のレビュー

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白水Uブックスから出ている「フランス幻想小説傑作集」。 中学2年生のとき、初めて買って以来、何度も読み直している。 もともと、幻想とか怪奇といったものに、目がないのだ。

全部で16編もの物語がちりばめられており、作者もサド侯爵から、バルザック、モーパッサンといった文豪までいるなど、豪華きわまりない選集なのだが、それらの中でも私が好きなのは、マルセル・シュオップの「ミイラづくりの女たち」と、ジュール・シュペルヴィエルの「沖の娘」。 

「ミイラづくりの女たち」は、弟(オフェリオンという古代ギリシア悲劇に出てくるような名前)とともに、リビアの砂漠に迷いこんだ「私」の物語。 血潮の色をした砂漠に円環状に円屋根の家が配されていて、そこでは、ミイラつくりが行われているという。女たちが、内臓や脳みそをひっぱりだしたり、香水やシナモンを体にすりこんだり、死体の爪を金色に磨いていたりするというのだから、何とも幻想的というか、変にエキゾチックな魅力さえ感じてしまう。 そして、文章がまた香り高く素晴らしい! 

「沖の娘」は、船が通らない時、海の上に突然出現する町に住む少女の物語。 彼女は海の壁に囲まれた村といっていい小さな町にいるのだが、そこには学校もパン屋も、いろんな店もありながら、住んでいるのは彼女一人きり。 彼女は、毎朝、部屋のカーテンを開けたり、村役場の旗を上げたり、いつの間にか出現する食べ物を食べながら暮らしている。・・・けれど、船が通るたび、この町は波の下に沈み、少女も深い眠りにとらわれてしまう。--

こんな話を読むと、大洋のどこかには、そんな不思議な町があって、ひとりぼっちの女の子が暮らしているような気さえしてくるから面白くて、哀しい。 同時に、人間が脳髄の中に広げるイマジネーションの凄さに感動もするのだけれど。

何度もいうように、私は幻想や怪奇に魅せられているのだが、悲しいことに、こうした物語を好む人はあまりいないのか、翻訳ものでも、こうした分野の本はほとんどといっていいほど見かけない。


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