ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

日本沈没

2017-02-24 16:38:12 | 本のレビュー

「日本沈没」 小松左京 著。 小学館文庫

言わずと知れた、日本SFの名作。 なんでも、1973年に発表されて以来、400万部もの販売数を記録したロングセラーなのだとか。

もちろん、私も題名はよく知っていたのですが、一度も読んだことがありませんでした。大体、小松左京という作家も名前はよく知っていたはずなのに、彼のSF短編集を読んだのが、ついこの間という始末なんであります。

で、読後感はと言うと……ム、難しい。 地震や火山の噴火、海底火山やマントル、プレートテクトニクスなどの地球物理学に関する問答や思考が延々と繰り広げられ、単なるパニック小説とは程遠い、重量感ある大作。

しかし、本当に地底に大きな亀裂が起こり、日本が沈没してしまうなんていう現実が起こりうるのだろうか?  伝説のアトランティス大陸がそうだったように…。
あまりにも、荒唐無稽といってしまいそうだけれど、東北の大震災だって千年に一度と言われる災厄で、誰一人予想できなかったはず。

理系の学識はからっきしない私にとって、理解できないことはいっぱいあったのですが、それでもこの小説はとても面白いノヴェルでありました。なぜかというと、この未曾有の危機に立ち向かう人々のキャラクター造形が、とても魅力的なんですから。

潜水艦のパイロット(?)である小野寺という青年や、彼にかかわることとなる知的なブルジョワ娘の玲子――海中に沈む日本、というスケールの大きな物語以上に、小説が語るべきなのは、やっぱり人間についてなのですね。

国が消滅してしまった後、日本人は世界中をさまようこととなる、と不吉な予言をなして物語は終わります。かつてのユダヤ人以上に、つらい厳しい試練が彼らを待っているだろう、と。
玲子は生死不明のままであり、小野寺は高熱のため、記憶を失ったまま、どこへとも知れぬ列車の中で目をさますところで、小説は終わります。
彼らが、このまま放りだされて良いはずはない――しかし、小松左京が続編の筆をとるまで何十年という長い時が必要だったようです。

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