ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

クリオネのしっぽ

2016-03-10 19:53:18 | 本のレビュー

「クリオネのしっぽ」 長崎夏海作 講談社。

昨年の坪田譲治文学賞受賞作。
先月、原作者 長崎夏海さんの講演会があり、その後「松ぼっくり」(岡山児童文学会)で長崎さんを囲んで談話会があったというのだが、用事があり出席できなかった。
それで、遅ればせながらこの作品だけでも、と読んでみたのだが(考えてみれば、坪田譲治賞を取った本なんて、一冊も読んだことなかったなあ)、面白かった!

題材自体は、目新しいことはない。中学2年生の美羽は、ごく普通のいい子だったのだが、ある事件をきっかけに、「あの子、怖いね」と周囲から敬遠されるように。
父親は家を出て行ってしまって、妖精のような、と言えば聞こえは良いけれど何だか頼りないママと二人暮らし。
そんなある日、近くの中学校の問題児幸栄(サッチ)が転校してくる。ポニーテールに結った美少女サッチは、聞きしにまさるワルで、何かにつけて美羽にかかわってこようとする――。

ストーリー自体は、よくある設定かな? という感じなのだが、キャラの造形が素晴らしい! 美羽もサッチも、美羽に唯一人親身に接してくれるクラスメート唯ちゃんも、ページから立ち上がって見えるかと思うほどに、実在感があるのだ。
「宝塚の男役」かと思うほどに背が高くボーイッシュな魅力のある美羽の姿が目の前に浮かんできそうだし、そのちょっぴり大人びた内面もストレートに、こちらに迫ってくる。

時代や場所は違え、誰もが14歳だった頃の自分をせつなく思い出すはず。こんな追憶が浮かんでくるのも、真に良質な児童文学作品のもたらす魔法に違いない。

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