「銀河鉄道の父」 門井慶喜 著 講談社
何だか、すごいタイトル名……「銀河鉄道999」とか「銀河鉄道の夜」というのは、よく知っているけれど、これに「父」と続くのが、独特のセンスを感じさせる。これが、良いセンスなのか、ミスマッチングなのかはともかくね。
題名からして、「ひょっとして、宮沢賢治もの?」と思った通り、この作品は、天才童話作家、宮沢賢治の一生を描いたもの。ただし、語り手は、賢治の父親である宮沢政次郎という人物であります。
宮沢賢治のお父さんが、息子を語る――この視点が凄く新鮮! 考えてみれば、存在自体が神格化されている賢治にも、両親はいたはずで、家族しか知りえない姿がそこからはのぞけるはず。
「う~ん、これは面白そうだわ」と思いつつ、ページを開いたのだけど、正直少しとまどってしまった。何て言うか、書き方が時代小説っぽいのである。悪く言えば、「オジサン風」というか……ここで巻末にある、著者のプロフィールをひっくり返してみたのだけど、やっぱり時代小説を書く人であるらしい。しかし生年を見ると、私と同じ年。
政次郎と賢治の父子関係が、実際のそれ以上に「時代小説」に出てくる江戸時代の親子を連想させる事の外、文体が平明で生き生きとしていて「読ませる!」には違いないのだが、情緒もへったくれもないのに、驚いてしまった私。
宮沢賢治の美しい作品を、記憶している人々にとって、ここで描かれた賢治や宮沢家の物語は、あまりに赤裸々で、びっくりしてしまうのでは?
、「永訣の朝」に描かれた早世した妹トシに至っては、いかにも儚げな佳人のように思っていたのに、この作品に登場するのは、気の強い田舎娘の姿。
何だか、イメージ狂ってしまったなあ。
それでも、美しい童話だけが、深く人々の心に記憶され、実像は神秘的なヴェールに包まれていた賢治の、生身の姿を描いた小説は他に見当たらない気もする。
こんな意味合いでも、とても面白く、エキサイティングだった本。門井慶喜さんの、読みやすい文体も好きであります。
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