二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

テントウムシは飛び立つ(ポエムNO.2-38)

2014年06月08日 | 俳句・短歌・詩集
テントウムシは飛び立つ アジサイの葉陰から。
体を小刻みにちょっと震わせ 仲間に合図を送って。
どこへ?
むろん 永遠に向かって。
それがあるといわれる方角に向かって。
時の断崖。
テントウムシは飛び立つ 人びとの心の暗がりから。

テントウムシが飛び立ったあとの虚空を見つめながらたたずみ
それから澱みに残ったうたかたみたいな路地へ入る。
しばらくしてまた出てくる。
だれかの あるいはぼく自身のナルシズムという汚物を踏んづけたりしながら。
だけど 飛び立ったのは
テントウムシばかりではなかった。
ぼくがぼんやりしていただけ。

虚空がある日のぼくと ぼくたちを見下ろしている。
ラピスラズリの表面に ひび割れがふえ
そこから血が滲んで。
日常のあかぎれ。本が必要だな だけど
本がものの役にたたないとき。
ぼくは虚空へと飛び立っていくテントウムシを見送っている。
気が遠くなるほど 長いながいあいだ。

テントウムシという名の
虚空の ブローチ。
《家は逆旅の舎なれば
我は当(まさ)に去るべき客の如し》
最後のひと蹴り。
そしてラピスラズリの蒼穹に身を投げる。
さよならともいわず。



※カッコの中の語は陶淵明「雑詩 其の七」より。(岩波文庫、陶淵明全集下巻所収)

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