二草庵摘録

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大木毅「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」岩波新書(2019年刊)を読む

2021年02月02日 | 歴史・民俗・人類学
期待を込めて読みはじめはしたものの、さきに結論を書いておくと、あまりおもしろくはなかった。
最新情報によってブラッシュアップはされているが、昔からある戦記物、第二次大戦ものとそう大きくは違わない。
本書は「新書大賞2020」の第一位に選ばれた本である。
だからというわけではないが、付せられた帯に呉座勇一さんの推薦文があり、
《冷戦期のプロパガンダによって歪められた独ソ戦像がいまだに日本では根強く残っている。本書は明快な軍事史的記述を軸に、独ソ両国の政治・外交・経済・世界観など多様な面からその虚像を打ち払う、露わになった実像はより凄惨なものだが、人類史上最悪の戦争に正面から向き合うことが21世紀の平和を築く礎となるだろう。》

この一文を読んで購入を決めたのだ。
13万部突破と謳われ、出版社は誇らしげである。

大木毅さんは本書の大半を、いわゆる“軍事史”に費やしている。歴史ものといわれるジャンルのなかで、軍事史は一種特別な世界を形成している(´・ω・)?
友人に軍事オタクがいるが、彼は兵器マニアでもある。戦車だの軍艦だの大砲だのにやたら詳しい。
一方わたしは、歴史もののうちでも、これまで、戦記や軍事史には、ほとんど近づいたことがなかった。

図版が豊富に掲載されている。そのほとんどすべてが、戦場となった独ソ国境地帯の見取り図。戦略・戦術・作戦のよしあしを、地図をもとにして、子細に検討しているわけだ。
そして犠牲者が、民間人何万人、軍人何万人、物損が何億・何十億・何百億と検証して、それらの数字をもって戦争の惨禍を描き出してゆく。
生き残った当事者の戦争に対する証言は、いたって生々しく、読者の胸をえぐる。

読みはじめは「あっ、そんなにひどかったのか!」と胸を衝かれる思いをした。しかし・・・出てくる数字が、どれも現実離れしたものなので、数値に不感症になってしまう。
後味がよくないし、少々気分が悪くなったのも事実(゚Д゚;)

終章で著者は戦争を、
通常戦争
収奪戦争
世界観戦争(絶滅戦争)
・・・に区分している。
サブタイトルにあるように、絶滅戦争の惨禍を、読者に向けて、しつこいほど強調している。

《「これは絶滅戦争なのだ」。ヒトラーがそう断言したとき、ドイツとソ連との血で血を洗う皆殺しの闘争が始まった。日本人の想像を絶する独ソ戦の惨禍。軍事作戦の進行を追うだけでは、この戦いが顕現させた生き地獄を見過ごすことになるだろう。歴史修正主義の歪曲を正し、現代の野蛮とも呼ぶべき戦争の本質をえぐり出す。》(BOOKデータベースより)

戦略・戦術・作戦のよしあしは、防衛省の軍事研究家にとっては“飯のタネ”であるだろう。
だけど、「開戦時の独ソ両軍の戦闘序列」なる表を見せられても、現実感が希薄なのはどうしてだ?
とはいえ、第五章「理性なき絶対戦争」、終章「『絶滅戦争』の長い影」は興味深かった。
ドイツの統一、ソ連の崩壊によって情報公開がすすみ、隠蔽されてきたものが剥がれ落ちてきたと著者はいう。

「露わになった実像はより凄惨なもの」と呉座さんが評するように、たしかにその通りなのだろう。
この世で一番恐ろしいもの=それはある種の人間である。
国家の指導者だったヒトラーもスターリンも、人間を人間とはかんがえていない悪魔、すなわち地獄からの使者であった。これこそまさに笑えない現実なのだ。

わたしはそんなつぶやきを、何度もくり返しつぶやきながら、本書を読み終えた。



評価:☆☆☆

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