4月にクラシック音楽にのめり込んでから、
さっぱり小説が読めずにいたが、昨夜、森鴎外の2編を読んだので、
それについて少し書いておこう。
読んだのは、
1.「じいさんばあさん」(岩波文庫の現行本で11ページ半)
2.「寒山拾得」( 〃 縁起をふくめ、16ページ半)
このほんとうに短い小説が、わたしは昔から好きだった。
いや、昔から・・・というか、いくら読んでもつきない味わいがひそんでいるこ . . . 本文を読む
本書は、フローベールの小説「感情教育」をめぐって、19世紀パリ風俗を語った、フランス文学の入門書であり、文化論である。
18世紀に急速に成長し、フランス大革命で大きな折り返し点をむかえたブルジョアジーは、その後紆余曲折をへながら、19世紀なかばから、末期へかけて絶頂期へと入っていく。これによって、フランスの時代、パリの時代が花開き、輝かしき「ブルジョアの世紀」とよばれる時代が形成される。ユゴー、バ . . . 本文を読む
個人的な思い出からはじめることをお許しいただこう。
というのも、わたしは、この本のラストシーンに、およそ40年かかって、たどりついたからである。
中学2年の春であったか、宮下隆行くんという友人がいて、「おもしろから読んでみたら」といって、わたしに何冊かの書物を貸してくれた。
そのうちの2冊は、たしかカッパノベルスの三鬼陽之助の財界小説(あるいはノンフィクション)、もう1冊が、この「戦艦武蔵 . . . 本文を読む
結論をさきにのべれば、「蟹工船」は、秀作である。ただし、ある一点をのぞいて。
その理由についてはあとでふれよう。
こういう作品が、昭和4年、24歳の青年によって書かれていたとは。
まず、本書冒頭、十行ばかりを引用してみよう。
『「おい地獄さ行《え》ぐんだで!」
二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛《かたつむり》が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。――漁夫は指 . . . 本文を読む
■美しい村
堀辰雄は中学校3年生のころ、「辛夷の花」(「大和路・信濃路」所収)を教科書で読んだのが最初。
過不足のない、すぐれた紀行文として、いまでもよく覚えている。軽井沢、というより、信濃追分に未亡人堀多恵子さんが健在であることがわかり、アポイントをとって出かけていき、文芸部の機関誌に探訪記事をのせたのもそのころ。
『私は毎日のように、そのどんな隅々までもよく知っている筈だった村のさまざま . . . 本文を読む
藺草の栽培地をもとめて、中国湖南省の僻地へ入っていった日本人商社マンが経験する、謎と恐怖に満ちた物語。
ご自身の体験を下敷きにしているのだろうか?
中国の風景や、中国人たちは、うまく描き分けてあるという印象をうけた。「桃源郷」神話を利用しながら、カフカ的な迷宮世界を作り出すことに成功しかかっている。それが評価され、1990年上半期の芥川賞を受賞。そのあとも活躍されて、読売文学賞、谷崎賞、川端 . . . 本文を読む
女が「女であること」にとことんこだわると、こういう作品になるのかという感想がまず浮かんできた。身体感覚、もっといえば皮膚感覚のオンパレード。ぬるぬる、すべすべ、しっとり、ざらざら。
長いセンテンスを、句点だけでつなげていくから、センテンスの途中で主語と述語が変化し、コアをつかませない。眺める角度によって色の変わる鱗粉のような文体であるが、むろん、作者によってしたたかに選び取られた文体である。
. . . 本文を読む
読み了えた直後、mixi日記に、わたしはこう書いた。
『澁澤龍彦の万華鏡的世界。グロテスクであり、変態的であり、きらびやかであり、イメージの博覧会場のような文学の終わりにきたものが、この「高丘親王航海記」であった。 澁澤は、死の床において、これを書ききったのである。本書が書物となり、高い評価をえて読売文学賞を受賞したときには、すでに「彼岸の人」となっていた。
宝石のような輝きを放つ、幻想小説 . . . 本文を読む
小説家開高健による、ベトナム従軍記者の体験をつづったルポルタージュ文学の傑作。
・・・とわたしは考えてきた。もうずいぶん以前にも、いちど、半分ばかり読んで投げ出した記憶がある。そのときは「現代の『方丈記』ではないか」といった印象をいだいたものだ。
しかし、今度通読して、どうもそんな生やさしい作品ではないとの感を深めるにいたった。単なるルポルタージュではないし、私小説でもない。著者開高健は、い . . . 本文を読む
書評家、評論家向井敏、谷沢永一などの本を読むと、開高さんのことがしばしば語られている。
同人誌「えんぴつ」時代からの親友なのである。
松岡正剛が、向井の「開高健・青春の闇」のレビューで、こんなことを書いている。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0280.html
開高さんは、たいへんな読書家で、若い時代には、蔵書家谷沢の書斎に入り浸った。後に書評家 . . . 本文を読む