虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

子どもの内面に 言葉にできないうっぷんが溜まっている時には? 3

2016-05-28 18:41:53 | 日々思うこと 雑感

Aくんの態度が以前に比べて全体的に消極的で自分らしさを抑えたものに見えたので、

Aくんの今の「旬の興味」を探ってたっぷりやらせてあげる必要を感じました。

自分がやりたいことを存分にやりつくすことで、子どもは情緒の落ち着きと

自分への信頼感や自信を取り戻しますから。

 

Bくんのお兄ちゃんがブロックで作ったストッパーを使って、

並べたミニカーを一気に滑らせるという遊びをしていた時、

Aくんの関心はこの遊びのメインである「ストッパーをあげた瞬間、ダイナミックに

滑っていくミニカー」にあるのではなく、

車と車の間にできる一台分の隙間にミニカーを詰めることにありました。

他の遊びでも、空所を目にするたびに、そこにあうものを詰めようとしていました。

 

そこで、写真のような木のパズルを用意して、ひとつだけ隙間をあけてみたのですが、

Aくんは興味を示しませんでした。

そういえばAくんは、どっしりとした手ごたえのあるものを扱うのが好きなのです。

また、ストーリーのあるお話が好きなので、ボードゲームや知育玩具も、

無機質な教具教具したものよりも、それを手にしてお話ししながら遊ぶような

どこか温かみのあるものやとぼけた風合いのものを好むのです。

ですから、同じ「詰める遊び」にしても、Aくんが操作を心地よく感じるもので、

ストーリーを展開しながら、

それらで詰めていく作業ができるように枠を工夫することにしました。

 

ブロックで枠を作って、新幹線を入口から入れます。

Aくんは入れた後で、奥に電車を詰めていく作業が面白くてたまらない様子でした。

 

それを見ていたBくんのお兄ちゃんが、「ぼくもやらせてよ」と

言いました。Aくんは、列車を全部抱え込んで返事をしません。

「お兄ちゃん、Aくんは今貸したくないみたい。

列車ね、Aくんがこうやってこうやってこうやって

ギューッて奥に入れて遊んでいるのよ。まだ、もっともっとそうやって遊びたいはずよ。

教室にはたくさんミニカーがあるから、いっぱいいーっぱいお兄ちゃんに

出してきてあげるよ。先生といっしょに駐車場を作らない?

Aくんのより大きくて、車が出たり入ったりするところと面白いしかけが

いろいろあるようにしたらどう?」とたずねても、

「いやだよ。ぼくも、列車で遊びたいんだ。列車を貸してよ」と

Bくんのお兄ちゃんも譲りません。

Aくんはというと、絶対、ひとつも貸すものかと電車を抱え込んでいました。

しばらく経った時、Aくんのお母さんが穏やかな口調で、

ひとり占めをせずにお友だちとわけあう大切さを教えながら、

「お兄ちゃんにひとつ貸してあげたら?」と誘いかけていました。

Aくんのお母さんの対応は正しいものでしたが、

これまでさんざん有無も言わせずおもちゃを取り上げられることが多かったAくんに

対して「今回は特別」という機会を作ってもいい気もしました。

 

「Aくん、列車を1台だけ貸してくれる?」とたずねると、「いや」と小声で答えます。

「じゃぁ、この列車は貸してくれる?」「いや」

「じゃあ、これは?」「いや」

「Aくんは、一台も貸したくないのね。ぜんぶ、Aくんが使いたいの?」と聞くと、

真剣な表情でこっくりします。

 

「お兄ちゃん、あのね、前にAくんが遊ぼうとしたらね、だめー貸さないよ、

全部取っちゃうよ、ってAくんのお兄ちゃんがおもちゃを全部取ってしまったのよ。

それに、今日は、Aくんがミニカー並べたいなと思ったら、

だめだめ、触っちゃだめってBくんのお兄ちゃんが言ったでしょ。

だから、今度はAくんは、この列車は全部自分で使いたいんだって。

ね、今日だけ、お願いよ。

今日は、Aくんが列車で遊ぶことにして、お兄ちゃんは先生とすごくいいおもちゃを

探しに行くことにしたらどう?

お兄ちゃんの大きな駐車場を作って、宝物も隠せるようにしたらどう?」とたずねると、

Bくんのお兄ちゃんは「いやだよ。ぼくは列車で遊びたい。列車、取っちゃうよ!」

と言いました。

 

するとその時、Aくんが、いいことを思いついたという様子で、

「電気を消して、まっ暗にしたら、取れないよ。遊べない。」と言いました。

「そうよね。電気消したら、夜になっちゃうかな?

きっとおもちゃが見えなくなって取れないよね。暗くしてみよう」と言うと、

それまで緊張して引きつっていたAくんの表情がほころんで、笑顔がこぼれました。

 

部屋の電気を消してみると、少し薄暗くなりました。

「見えるよ。それに取れるよ!遊べるし。」とBくんのお兄ちゃん。

「えっ、電気を消したのに、本当に見えるの?」とびっくりした様子でたずねると、

「見えるよー!!」と答えます。

「お兄ちゃんは、暗くても、ちゃんと目が見えるの?」

「見えるよー!」

Aくんはそのやりとりをニヤニヤしながら見ています。

昼間なので電気を消しても、ちょっと薄暗いかな程度なのですが、

自分以外の人の目にその世界がどのように映っているのか興味をそそられたようでした。

 

再び、電気をつけた後も、「列車を貸して」と言い続ける

お兄ちゃんに、「じゃあ、列車に聞いてみようよ。

お兄ちゃんがたずねてみてよ、いっしょに遊ぶ?って」と言うと、

「それは、先生が答えるんでしょ?いやだ、遊ばないって先生が答えるんでしょ」

とお兄ちゃん。怒ったふりをしていますが、目が笑っています。

 

Aくんはというと、「電気を消して、まっ暗にしたら、取れないよ。遊べない。」

と言ってから、急に本来のAくんらしいほがらかな茶目っ気たっぷりの態度に戻って、

ああだから、こうだから……と思いつくままにいろいろなおしゃべりを始めました。

 

Aくんいわく、貨車は列車の仲間じゃないので、列車といっしょに

並べるわけにはいかないのだとか。

前にも後ろにも新幹線の顔みたいなとんがったところがないからだそう。

 

 

いきいきしたAくんらしさを取り戻したとたん、新しい遊びを試してみたり、

不思議さに心を奪われたように覗きこんだりする姿がありました。 


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