ユースホステルのレッスンで、何度もかんしゃくを起こしては、
「お母さん、きらーい」 と言って、お母さんを叩きまくる困ったちゃんぶりを
発揮していた5歳の●くん。
みんなで食堂で夕食を食べるときも、ちょっとしたことで機嫌をそこねて
お母さんを叩き始めました。といってもちょっと手加減している叩き方ではあります。
この●くん、工作や勉強に誘う私にもちょこちょこ反発していたものの、
その怒りの矛先はお母さんに向けていました。
が夕食時にはお母さんだけでなく、そこで座ってきちんと食べるよう注意した私にも
手を振り上げてかかってきました。
後で●くんのお母さんの話を聞いたところ、お母さんにはしょっちゅう当たるものの
他の人に向かっていったことは一度もなかったため、
この時の●くんの行動にはびっくりしたそうです。
私は、お母さんと自分だけの狭い世界に閉じこもって傍若無人に振舞っていた●くんが、
(私にもはむかうことで)「とうとう、一歩、外に出てきたな」と思いました。
●くんはこんなふうにわがまま勝手な行為が習慣になっているようですが、
人の気持ちがわからないタイプの子ではないように見えました。
「お母さんきらーい」「そんなんしなーい」「いやー!」と素直じゃない言葉を
吐くときも、ちょっとあごをつきだして茶目っ気のある表情をしてみせ、
その後、みんなの注目が集まると笑顔がこぼれているのです。
ちょっと突っ張った、何でも拒絶する態度の背後には
自信のなさや寂しさが隠れているようでもありました。
何か気にいらないことがある度にお母さんを叩き始めるので、
●くんをお母さんと自分の狭い世界から連れ出して、お友だちや他所のお母さんや私、
参加している小学生のお兄ちゃんお姉ちゃん、年下の子、
ユースホステルの職員さんなどとの関わりを通して、
成長への意志を目覚めさせていかなくてはならないと感じました。
学習タイムには、「いやー」と反発してきちんと取りくまなかったものの、
声をかけたときに返ってくる機敏な反応や、遊ぶ様子などから
「●くんはおそらく知能が高くて、頭の回転が速い子で、人の気持ちを理解する
感受性の良い子だろう」と思われました。
ただお母さんに甘えたい気持ちと、素直に甘えられず何もかもに反抗したい気持ちを
同時に抱いていて、その複雑な相反するふたつの欲求の間を揺れながら
お母さんを叩いてばかりいるという様子でした。
ちょっとしたことで機嫌をそこねては、「お母さん、きらーい」とお母さんを
叩きにいっていた●くんは、私に手をふりあげて、手加減しながら何度か叩いた後で、
少し鎮まって夕食を取り始めました。
ユースホステルでは、食事の用意も後片付けも子どもたちに手伝ってもらっています。
年上の子は下の子を面倒を見、年下の子は年上の子の指示に従います。
男の子同士でいっしょにお風呂に入ったり、
女の子同士でおしゃべりに花を咲かせていたりします。
子どもたちでフロントにカギを預けに行ったり、職員さんにお礼を言ったりもします。
そうしたひとつひとつの自分の身体で動く地に足のついた活動、
さまざまな人と関わりながらする活動が、子どもたちを素直にし、
視野をどんどん広げて、自立心を育んでいくのがわかります。
子どもの表情や態度がみるみる変化していくのです。
実はユースホステルの夕食は、
食堂ではなく、1階にあるレストランですることもできるのです。
何度かユースホステルの都合で、こちらのレストランで食事をしたことがあるのですが、
レストランの方が食事代が安くつく上、食事内容も豪華なのです。
それでも、私はユースホステル側から頼まれない限り、
ユースホステル内にある食堂で食事をすることに決めています。
なぜなら、レストランでは私たちは完全にお客さん状態で、
至れり尽くせりで給仕していただけるのです。
それのどこがまずいの?と驚かれるかもしれませんね。
そうして至れり尽くせりしてしまってお客さん状態を過ごした子らというのは、
必ずといっていいほど、ちょっとぞんざいな他人の姿が目に入っていないような
行動を取ります。
遊ぶ時に拾った木の実を投げ合ってみたり、大人の指示を無視して駆けまわったり……。
もちろん、食堂で食べた後も、ちょっとおふざけする子はいるのですが、
「あれっ」と驚くような成長も見られるのです。
自分のお母さんも、自分より小さな子もみんな働いている……。食べたり飲んだり
するのにもさまざまな手間が必要で、お互いに助け合ってそれを可能にし、
終われば責任を持っていっしょに片付けなくてはいけない。
そうしたことを身をもって体験し、
他所のお母さんや友だちから「ありがとう」と声をかけられると、
どの子もしゃんとして、いきいきとしてくるのです。
家族旅行でなく、多人数の団体旅行でもなく、
人と人とのつながりを濃く感じることができる少人数の知らないもの同士の
関わり合いは、協力しあう気持ちや冒険心、自分を良い方向に変化させようとする
意志を養ってくれます。
夕食時にひと暴れした●くんも、そうしたいろいろな新しい経験を経ながら
お風呂の後に美術工房でする科学遊びや算数の学習では、お母さんへの執着が薄れて、
年上の子らにまじって算数の文章題に取り組んでいました。
もともと頭の良い子ですから、
「いやー」という気持ちよりも、知的好奇心のがまさっていたようです。
5年生の子が難しそうな文章題を解く様子を、
ホワイトボードの前まで行って食らいつくように見ていました。
年上の子たちが、算数の難問に夢中になる様子を、年下の子たちはどの子も
あこがれるように目を皿のようにして見つめていました。
●くんたち幼稚園の子たちも、自分たちの課題をきちんとこなすことができました。
そうした様子を見て、●くんのお母さんも
●くんが賢くてきちんとできる子であることと、
より広い世界に触れさせていく大切さを実感したようです。
ユースホステルに泊った翌朝、食堂には朝食時間の少し前に
子どもたちがちらほら顔を出していました。
ご飯をよそってテーブルに運んだり、氷水やおかずを運んだり忙しく働いてくれました。
小学生の男の子たちには、参加人数と運んだご飯や飲み物の数が合っているか
考えてもらいました
こうしていろいろと頭を使う作業を頼んでいると、
子どもたちは「何となく」するのではなく、「よく考えて」行動するように
なってきます。
朝食の準備が整ってそこにいるメンバーが席についたとき、
少し寝坊したらしい●くんと、同室だった◇くんが食堂にあらわれました。
私はふたりに向かって、
「先に来た子たちが食事の準備を手伝って、●くんと◇くんの分も用意してくれたのよ。
ちゃんとみんなにお礼を言って!
さぁ、男の子たちがあっちで食べてるから、いっしょに空いてる席に座って。」
と言いました。
こういうことを告げるとき、私はあまり感情を込めません。
さばさばと事実を説明するだけです。
感情的に注意して反省させるのではなく、ただ見えている世界が広がるように
あるがままの事実を説明していくだけで、子どもはきちんと理解するものです。
すると夕べまではこちらが何か言うたびに、
「そんなんしらーん」「きらーい」を連呼していた●くんが、静かにそちらに
「ありがと」と言いました。◇くんも、ぺこりと頭をさげてお礼を言いました。
その時、「男の子たちがあっちの席に座っているから空いている席に座って」
と指示したものの、
男の子たちが座っている場所に空いている席はひとつしかないことに気付きました。
女の子にひとつ横に席をずらしてもらおうかと考えているうちに
●くんはくるっと後ろを向いて、大人たちが座っている別のテーブルの席に座りました。
すると、
男の子たちがかたまって座っている場所にまだ1つ空席があったにもかかわらず、
◇くんがだまってスーッと移動して、●くんの隣に座りました。
●くんは照れたように下を向いて黙ったままでしたが、
何だかとてもうれしそうでした。
朝食が終わると、●くんと◇くんが親しげに遊ぶ姿がありました。
急速に仲が良くなった模様です。
前日まで、
お母さんに絡んでは「お母さん、きらーい」と言って叩いていた●くんですが、
そうして気持ちが通じる友だちができると、
友だちとふたりで優しい表情で遊んでいました。
「朝食の準備は他の子たちがしてくれたんだから、
お片付けはふたりが手伝ってちょうだい」というと、
素直に食器を返却コーナーに運び始めました。
その時、●くんは、食堂の前の通路に置いてある各地のユースホステルの名刺を
手にごっそり持っていました。
自由に持って返っていいものですが、遊び半分で持っていくのは感心できないし、
それに取り過ぎです。
「●くん。いいもの見つけたのね。でも、それ多すぎるんじゃない?」
と声をかけました。
すると、昨日まではつっぱった反抗的な態度に終始していた●くんが
落ち着いた声で、「そうだ、半分返してこよう」と言うと、
すっと名刺が置いてあった場所に名刺を戻しに行っていました。
朝食後の最後のレッスンの工作タイムでは、紙を円すい形に丸めて、
空気で飛ばすロケットを作る●くんの姿がありました。
↓は朝の工作タイムで「秘宝作り」をしている子らです。
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<前回の科学クラブの子らのユースホステルでのレッスンの様子です>
男の子たちのユースホステルのレッスンに行ってきました。
もうすぐ3年生になる子たちが中心で、もうすぐ4年生になる子と1年生になる子も
数名だけ参加しました。(弟くん、妹ちゃんも数名参加)
参加メンバーのほとんどが、算数にはちょっと自信があるという子たちだったので、
まだ2年生(もうすぐ3年生)の子らとはいえ、
みんなでチャレンジするの課題は、中学入試問題から選びました。
同志社中の過去問です。
1辺が1センチの立方体をを積み上げた立体があります。
真上から見た図、アの向きから見た図、イの向きから見た図から、
この立体に使われている立方体の個数は何通りか、
立方体の個数が最も多い場合は何個かを求める問題です。
今回は、最大となる時の個数のみを考えてみました。
真上から見た図のマス目に、
最も数が多い場合の数値を書き込んでいきます。
他の子の答えに、異議あり!という子らがどんどんホワイトボードに近づいていって
成り立たない理由を説明したり、自分の思う数値を書き込んだりしています。
「これは絶対、正解!」というものを
みんなとわたしに確認しながら答え合わせをしています。
「この問題の意味がわかない」とぼやいていた子のために
色画用紙と紙コップで、
問題の見本を作りました。
これだと、わからなかった子もしっかり理解できたようです。
この問題、子どもたちの心に強くヒットしたようで、
夕食後、部屋でくつろいでいる時も、
同様の問題をオリジナルで作って、解き合っている子らがいました。
「何しているの?」とたずねると、「復習!」と出木杉くん風の返事。
(普段はかなりやんちゃで落ち着かない子たちです)
↑ 大人気だった野球ゲーム。
野球ゲームのバットを振る部分の仕掛けを見た子が、
竹ひごを左右に動かすことで電池のスイッチが入りモーターが回りだす仕組みを
作りました。
それを見たお友だちが、スイッチが入ってモーターが回りだすと
その振動で円形のスポンジが浮き上がる装置を考えました。
↑ 協力してアイデアを出し合って、ゴムとビー玉の力で動く車を製作中。
↑ は朝食風景です。
この前夜の夕食時にはちょっとしたトラブルが発生しました。
数日前のユースホステルのレッスンの際、
女の子たちがはしゃぎすぎて騒がしかったものですから、
それを早めに着いた男の子に話したところ、
「静かにしなさい、って貼り紙を作ればいいんだ。ぼくが作ってあげるよ」と
提案してくれました。
そしてその男の子が、「お静かに」の貼り紙を作って、
子どもたちが寝る部屋に持って行ったところ、
それを面白く感じなかった子らが何人かいたようで、
反発したりからかったりしたみたいです。
そこにいたきかん気の幼稚園児の弟くんは、
紙皿に「どうしてしずかにとかかくんだ、バカ~」など、
貼り紙を作った子の悪口を書いて応戦したそうです。
そんなこんなで教室の役に立とうと思って行動したのに
さんざんな目にあった男の子は、すっかりへそを曲げて、「夕食は食べない」
と言って、ひとりで部屋に立てこもっていました。
「気分が落ち着いたら食べにおいでよ」と言い残して、
ひとまず1階のレストランに移動。
その後で、悪口を書いた弟くんに、その子のところに謝りに行って、
ついでに食事に誘ってくるように言い渡しました。
それから、この揉め事には関わっていなかった子らにも声をかけて、
謝りにいくのにいっしょに同行して、部屋に残っている男の子に
「おいでよ」って誘ってあげる子はいないか、とたずねました。
すると、「はい」「はい」とたくさんの手が挙がって、
大人数で手を取り合って、友だちを迎えに行ってました。
しばらくすると、無事、その子もレストランに現れて食事をしていました。
お泊りのレッスンというと、テンションがかなり上がっていますから、
こうしたドタバタはお約束のように毎回あるのです。
でも、回を重ねるごとに友だちと協力しあうことや自分たちで問題を解決することが
上手になってきたな、と思います。
夕食後のレッスンで、ラミィキューブの駒を使って、最小公倍数、最大公約数を
当てるゲームをしました。
1年生以下の子らは、時間の計算について学びました。
↑ ちょっとおふざけをしていた子らも真剣な表情になって夢中で解いていた
「トーナメント」についての問題。
慶應義塾湘南藤沢中等部の入試問題のひとつの設問の3つの問いのうちのふたつです。
2,4,8,16……のように、2をいくつかかけ合わせた数のチーム数が
参加するトーナメント(勝ち抜き戦)を考える。
1つのトーナメントで行われる各試合が何回戦かを示す各数字をすべて加えた数を
Nであらわす。
たとえば、チーム数が8のときには、1回戦が4試合、2回戦が2試合、
3回戦が1試合行われるので、
N=1+1+1+1+2+2+3=11
となる。
①チーム数が16であるトーナメントでは、Nはいくつになりますか。
②6回戦が決勝戦となるトーナメントでは、Nはいくつになりますか。
何度も書き直したり、最初に予測した数とちがうことに悩んで、
友だちとなぜそうなるのか、わいわい言いあったりして必死で解いていました。
男の子たちはトーナメントの表のような勝負に関わる問題が好きな子が多いようです。
ラミィキューブで対戦。
幼稚園の弟くんが、運が良くて駒が少なくなっていたもんですから、
「このゲームは、どーせ、運がいい人が勝つんだからな~」とぼやく子が……。
すると、戦略家の男の子が、
「運のゲームなんかじゃないよ。頭で考えて手を出すんだよ!」ときっぱり。
すると、その後は他の子らもかなりひねった、いい手を出していました。