虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

女の子の友だち関係が難しい~

2022-05-14 16:26:28 | 3、4歳児

女の子たちがグループで遊ぶ姿を観察していると、年少さんの時点で、(男の子なら年長さん……)友だちの輪に入って仲良く遊ぼうと思うと、かなり高い人間関係的知能が必要です。
よく言う「空気が読めて」いるかいないかで、仲間はずれにされたり、女の子集団によるいじめを受けたりする姿を見かけるのです。

だから女の子は、年少さんまでに人間関係的知能を高めておかなきゃダメ、環境を状況判断できる力が必要というわけではないのです。
それが苦手な子がいるのはもちろんですし、そうしたことが苦手な子は、別の部分で非常に優れたところがある場合がよくありますから、「個性」の問題で、優劣とは何ら関係がありません。

けれど、困るのは、お友だちの輪に入れない「本人の悲しさ」や「自己否定感」です。

それと重要なのは、その場をおさめる目的だけの親や先生の介入やアドバイスの言葉を信じ込んで、友だちに高圧的な態度で接して、よけいに仲間はずれになったり、本人が嫌な経験をした後にくだした間違った人間関係の解釈が、成長してからもうまく友だちと遊べなかったり、自分の良い部分を発揮できない原因になったりすることです。

年少さんの女の子の★ちゃんは、集中力が高く、知能テストのような問題や図形パズルや数の教具を好むかわいらしい女の子です。
力も強く、手先が器用で、はさみを使って次々工作をしたり、おりがみやお絵かきに熱中するといくらでもやっています。
それが、大人と子どもの関係だけだと素晴らしい★ちゃんの個性は、同年の女の子グループでは、仲間はずれになる原因を生みやすいのです。

まだ年少さんですから、嫉妬といった複雑な心理が働いているわけでなく、単純に★ちゃんが教具に夢中になっているうちに子ども同士の遊びが次々新しく展開していて、「入れて~」というときには、「もう、お母さんも赤ちゃんも決まってるから無理~」と言われてしまうことの繰り返しです。
そこで、本人が「好きなこと(知的な課題)をしたら罰のように、お友だちに嫌われる~」と思い込む場合もあります。

★ちゃんが「人と仲良くする方法」として知っているレパートリーは、

何か上手にできたら、お母さんは一生懸命関わってくれる、お勉強ができると、自分のことを好きになってくれる……

というものなので、お友だちにもいろいろ教えてあげたり、上手にできるところを見せるのですが、逆効果で、それが原因で遊んでもらえなくなるときもしばしばありました。

今、反抗期、真っ只中の年少さんグループ。
「私が、このパズルしてみる?」とたずねると、「いや~」「やらな~い」「面白くない~」と、とにかく反対してみるのが楽しくてたまらない様子で、そう言いながらお友達同士「ね~」「ね~」と結束を強めています。

★ちゃんは、どのように振舞ったら、お友だちと仲良くできるのかつかみかねていて、お友達が悪ぶってふざけていると、危ない物を投げるとか、私の頭をたたくなど悪ふざけをエスカレートさせ、他のお友だちが今度は呆れて、★ちゃんを避けてしまうほど暴れてしまいます。
それがうまくいかないとみると、好きでたまらない教具も、お友だちといっしょになって、「面白くな~い、やりたくな~い」の大合唱に加わって拒絶することで仲間に入れてもらおうとします。

こんなときに、大人が「正しい」「正しくない」を押し付けて上から介入して問題を解決してしまうと、★ちゃんのお友だちと親しくしていく能力の成長を阻んでしまったり、見えないいじめの原因を作ってしまうことがあります。

グループで遊ぶ姿を見ていると、お友だちにちょっと出遅れると★ちゃんはたちまち自信なさそうに立ちすくんでいます。
何をすればお友だちに気に入ってもらえるのかと途方にくれている様子です。

幼稚園に通い始めた★ちゃんが、お友だちとうまくいっていないことを感じた★ちゃんのお母さんから、「今まで、この子を甘やかしすぎたんじゃないでしょうか?」と相談を受けたことがあります。

その時期、★ちゃんのお母さんは★ちゃんの欠点にばかり目がいっているように見えました。
★ちゃんは力が強くてがんばりやな一方で、加減がわかりにくく、物の取り合いになると強く引っ張りすぎたり、言い張るとしつこくなったりする面があります。

といって、激しくダダをこねるわけでも、お友だちにいじわるするわけでもありません。
この年齢の子ならあたり前に持っている弱い一面を、普通程度に持っているだけなのです。

それでも、★ちゃんがお友だちの輪に入りにくい現実を目にすると、いてもたってもいられない★ちゃんのお母さんは、★ちゃんがちょっと乱暴におもちゃを扱ったり、お友達に対して自己主張するだけでも、厳しく★ちゃんの悪い点を指摘して直させようとしていました。

たびたび注意を受ける上、実際にお友だちとうまく遊べないストレスが重なって、★ちゃんは自分の一挙一動に自信が持てなくなっていました。

それまでちょっと動きが粗雑だったとはいえ、自信に満ちた様子で自分のやりたいことをしていた★ちゃんが、グループレッスンでも私の表情をうかがいながらでないと何かはじめられなくなったり、お友だちにちょっと邪険に扱われると自傷行為に近い行動を取ったり、お友だちに迎合しすぎて暴れたり、好きなものも「嫌い!」と主張したりしてがまんしたり……と、緊張してぎくしゃくしているのです。

そんな★ちゃんの不安気な表情を見て、他人の心を読むことにたけている☆ちゃんは、わざと「遊べない」と言って、★ちゃんが仲間に入れてもらいたがってじりじりする姿を楽しんでいます。

といって、☆ちゃんはまだ3歳。けっして意地悪な子でもなんでもないのです。
お菓子を持っているときも、「先生にもわけてあげるね。~にも、~にも」と言ったり、次々新しい遊びを作り出して配役を決めたり……と、人と人との関係を作ったり、相手の心の動きに気づいたりする能力が高いだけなのです。
☆ちゃんの言葉にいちいち動揺する★ちゃんの姿が面白くて、悪気なく「入れてあげない」発言が続いているのです。

問題は「☆ちゃんが始める遊び」に入れてもらえないと「遊べない」と思いこんでいる★ちゃんの方にもあるのです。

そこで私が少しフォローして、★ちゃんが思いつく楽しい遊びに、他の子を誘ってみるという状況を作ると、「私も入れて!」と☆ちゃんも、他の子も★ちゃんと遊びたがりました。

また、★ちゃんはつい自分の今していることに熱中しすぎて他の子たちの動きに気づいていないことが多いので、時折、「みんな何をしているかな?」「お店やさんに来てよ~と言っているときに、遊びに行ったらいっしょに遊べるよ」とちょっとしたアドバイスをしながら、具体的にうまく遊べた経験を積ませました。
そして、「楽しく遊べたね」「いっしょに遊べたね」と、自信につながる実感が残るようにつとめました。

お父さんがお迎えにくると、★ちゃんは、呼ばれてもグループの活動には参加せずに、赤ちゃん返りしたように、おとうさんに甘えてぐずぐず言ったり、「帰りたい」と騒いだりしました。
★ちゃんはこれまで、反抗期らしいものはなく、こうした形で、お父さんに甘えたり、活動を拒否することは一度もなかったことなのです。

★ちゃんのご両親に、「いろいろストレスが多い時期で、エネルギーを充電する必要があるので、まず受け入れてあげてください」とお願いしているので、★ちゃんのお父さんは、ワガママに見える姿も叱らず受け入れていました。

すると、「帰る~」と騒いでいた★ちゃんが、お友だちの中に戻り、カゴから人形を出しながら大きな声で数える遊びを始めました。
すると、お友だちも同調して、笑いながら★ちゃんの真似をし始めました。
★ちゃんはもともとちょっとお勉強チックな活動が好きなのですが、これまでお友だちといっしょのときは、それを控えていました。
が、自分の自信を取り戻した★ちゃんは、私の手を借りずに自分の得意なことにお友だちを誘ってみたのです。
するとみんな喜んで参加してくれました。

自信がなくなったときや、ストレスが高まったとき、子どもはちょっと赤ちゃん返りをしてそれを受け入れてもらうと、また果敢に現実の世界に飛び込んでいきます。

いろいろと失敗しつつも、自分の感情と、判断に自信が持てるようになると、自分の喜びや良いところを犠牲にしない形でお友だちと仲良くしていく方法を微調節しながら創り出していきます。

急いで解決しようとして、「あんな意地悪な子と遊ばなくて良いよ」と言ったり、「遊んであげなさい」と強制したり、「あなたの~が悪いから遊んでもらえないのよ」と脅したりするのは逆効果。
子どもの心に耳を傾けて、「遊びたい」という思いがあるなら、子どものチャレンジをその都度少しだけ支援してあげ、うまくいかない時の悲しみを十分受け入れてあげていると、いつの間にか上手に友だちの輪に溶け込んでいるはずです。

★ちゃんのことから少し離れて、(★ちゃんの親御さんは早期教育にそれほど熱心なわけではなく、本人が知的な活動を好む子なだけなのですが)これから早期教育が子どもたちの遊びに落としている影について……ちょっと気になっていることを書きたいと思います。

早期教育をしたから、集団になじみにくくなるとか、仲間はずれにされる原因になるとか……そんな単純なことではないのです。

ただ3歳くらいまでの親子関係で、子どもが何気なく遊んでいるときに比べて知的な興味をしめしたときや、何かできるようになったときだけ褒めたり、かまったり、愛情をかけられたりすることが多かった子は、そうでない子より自然に遊びを楽しむことが難しく、自意識過剰になりがちで、お友だちが興味がないかもしれない働きかけを繰り返してしまうのをよく見かけます。

お友だちに気に入られたい思いは人一倍強いのに、お友だちからは自慢に見えたり、「うるさく何か教えられる」と誤解されるような行動を取りがちなのです。

それまで親御さんとの関係で成功してきた人間関係をお友だちとの間でも再現しようとするのです。

お母さんから、さまざまな知的な説明を受け続けてきた子は、お友だちの話を聞かずに、一方的に説明ばかりして避けられてしまうこともあります。

子どもにさまざまな体験をさせ、知的な刺激を与えつつも、そうした問題を避けることはできます。

子どもに知的な過剰な期待をかけないこと、さまざまな面でバランス良く接すること(何でもやりすぎはよくありません)、一歩通行にならないコミュニケーションを心がけることです。

ただ、早期教育をしていても、人間関係的知能が高い子はたくさんいますし、お友だちと遊ぶのが苦手だから、それまでの接し方が悪かったということではありません。

子どもは個性的で、さまざまです。
それに、どの問題も成長の一時期のことです。

子どもの教育について急いていると、子どもが友だちとうまく遊べない方が親には好都合という場合もあります。
たくさんプリント学習をさせたり、習い事で上位を目指すとき、お友だちとの関係で挫折して、子どもが親しか頼れない状態にある方がすばらしい成果をあげることができたりするのです。

『いま、こころの育ちが危ない』吉川 武彦(毎日新聞社)には、親と子の二重結合の問題が取り上げられています。

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(簡単に要約します)
同年どうしの関係に、無理やり飛び込まされる子たちは、そこでの争いに負けたり緊張を維持しきれなくてストレス状態になると、発達を後戻りして親との関係に戻ってしまいます。
後戻りしてきて結ばれた親子関係を二重結合とも言いますが、一見すると優しさにあふれた親子のようで、しっかり見ると自立を妨げている共依存の関係に陥っている親子でもあるのです。
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幼児がちょっと赤ちゃん返りすることは、この二重結合とは異なりますが、子どもがお友だちと遊ぶことに挫折したのを良いことに、親と子、二人三脚で勉強や音楽の世界での成果を追い続けるようなときは、こうした危険もありうると思います。

こうしたことからも、子どもは親が操作して「作っていく」ものではなくて、子ども自らの育ちを、チャレンジには少し手をそえ、励まして、失敗したら、受け入れて、再チャレンジへのエネルギーをチャージしてあげることを繰り返すことが大事なのだと思います。

 

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