夏の疲れが残る中、運動会や文化発表会などの練習に忙しいこの時期、
集団活動に疲れて、ちょっと調子が悪いという子たちが出てきます。
年少のAくんも、最近、飽きっぽかったり、すぐに感情的に
なったりする様子が気になっていました。
ボードゲームにしても、工作にしても、以前は
他の誰よりも積極的に取り組んでいたのに、このところ、
どうもやる気に火がつかない様子で、らせん状のゴム製のキーチェーンの
ミニチュア版をつないだりはずしたりして遊んでいました。
それで、わたしもAくんのお母さんも、
けっこう長い期間、Aくんの「何だか調子が悪い」という面と
「ばねをほしがる」という面のふたつと付き合っていました。
そうするうちに、いつも遊びたがるばねという素材と
Aくんの思考のあり方は似ているな、と感じるようになりました。
Aくんはばねをどんどんつないでいったり、伸ばしていったりして、
延々と遊んでいました。
Aくんは最近、口数が少なくなっているのですが、おしゃべりする時は
たいてい、今ある状況がどのように展開していくのか、
先に起こることについて、不安からではない、好奇心からの発言が多いのです。
また、今ある状況を遡っていくと過去にあった何かについて話す場合もよくあります。
「恐竜の時代は~」とか、「ウルトラマンの時代は~」と
いった話をするのも好きです。問題を解決する時に、
時間の変化に伴う「夜になる」といった想像力の世界での解決を好
みます。
そんなことを話していたら、Aくんのお母さんが、
そういえば、この子に本を読んであげると、
何日も経ってから、その話題についてずっと考えていた様子で質問してきます、
と言っていました。
そうしたAくんの姿が見えてくると、Aくんがばねで遊んでいる時、
そのばねは、時間が現在過去未来とつながって伸びている中で、
未来に進んだり過去に戻ったりするイメージを助けてくれているのだろうと
思いました。
また、伸び縮みすることから得られる発見は、
Aくんからいろいろな思いを引き出しているのだろうとも。
Aくんのようにイメージの世界で持続した考えを保てる子は、
場面ごとにどんどん気持ちを切り替えて順応することを求められるのを
嫌がることがあります。
Aくんが集団の場でいきいきと過ごすことを願いつつ、
一方でAくんの心の中で育っている内面世界を大切に守ってあげたいと
思いました。
子どもの内面世界を守るということは、つまり、
その子独自の創造的な学び方を大事にしてあげることだと思います。
物理学者のデウ¨ィッド・ボームは、『創造性について』という著書で、
人生のあらゆる段階で創造的な学習がいかに有意義か、
また学ばれるべきことの特定の内容よりも、
学ぶという行為それ自体を最優先することがいかに重要かを
どれほど強調してもしすぎることはありません」と語っています。
「学ぶという行為は、それなしには、人は何らかの新しい状況において
何が事実で、何が事実ではないかを知ることができないという意味で、
真の知覚の本質だからです。
新しい、なじみのない何かを見ることができる真の知覚が働くには、
人が注意深く、機敏で、よく気づき、繊細であることが必要です。」
とも言っています。
ボームによると、「アインシュタインより数学が得意で、
もっと物理学を知っていたかなりの数の科学者がいたにちがいないのに、
そのなかでアインシュタインが特別に際立った業績を残した理由は、
アインシュタインが独創性を持っていたから」なのだそうです。
独創性の必要条件のひとつは、
自分の先入見や偏見を押し付けずに、物事をありのままに見て、
たとえ自分の着想や観念が覆されても、
新しいことを学び取ることができなくてはならない、ということです。
それは、全人類に共通の原則で、子ども本来の学び方でもあります。
それについて、デウ¨ィッド・ボームは、『創造性について』の中で
このように説明しています。
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子どもは単に何かを実際に試し、そして何が起こるかを見、
それから実際に怒ったことに従って自分が行うことを修正することによって、
歩くこと、話すこと、そして自分の周囲の世界を知ることを学びます。
このようにして最初の数年間、人は驚嘆するような創造的な
仕方で過ごし、新しいあらゆる種類のことを発見していきます。
しかし、子どもが成長するにつれて、学習はより狭い意味を帯び、
学校では教師の歓心を買い、試験に合格するために、
復習して知識を積み重ねることによって学ぶようになります。
職場では、同様にして、生計の糧を得るため、または他の何らかの
このようにして、彼にそなわっていた何か新しい、独創的なものを見る
能力は徐々に弱まっていきます。
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