夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

とても面白い統計と言葉がある

2009年07月14日 | 言葉
 面白いと言ってはいけないかも知れない。はっきり言えば、分からない、誤解を招きそうな記事である。東京新聞の7月12日の日曜版の記事である
 タイトルは「原油可採年数」。世界に埋蔵されている原油はあと何年持つか、と言う統計である。「可採」とは「採掘可能」の意味だが、初めて見る言葉だ。
 順位が10位まで挙がっている。
1 カナダ         189年
2 イラク        133年
3 ベネズエラ      116年
4 クウェート      109年
5 アラブ首長国連邦   102年
6 イラン         95年
7 サウジアラビア     79年
8 リビア         69年
9 ナイジェリア      51年
10 その他OPEC諸国    32年

 カナダが第一位とは思いもしなかった。アメリカがイラクのフセイン政権を倒したのはなるほどと、納得した。ベネズエラとも最近仲直りしたようだ。
 そして説明を読んで分からなくなった。
 世界の原油確認埋蔵量は約1兆3422億バレルで、今後50年は採掘が可能とされる、とある。あれっ、カナダは189年もあるし、サウジアラビアだって79年もあるぞ。どこから50年の数字が出て来たのか。
 確認埋蔵量とは、既に発見されている油田に埋蔵する(「されている」の間違いだろう)原油のうち、現在の技術と経済性で回収出来る量だと言う。今後、石油の探査や掘削技術の進歩、新たな油田が発見されることも考えられ、きっかり50年で掘り尽くされてしまう訳ではなさそう、だと言う。
 つまり、先の50年と言う数字は、現在分かっている埋蔵量を現在の技術で採掘したら、との話である。それも埋蔵量の非常に少ない所も入れた平均なのだろう。9位が51年なのに平均すると50年と言うからには、埋蔵量の非常に少ない所が非常に多いのだろう。そうでなければ平均50年にはなりそうも無い。それに、新たな発見があれば50年はもっと延びるし、反対に掘削技術が進歩すれば50年はもっと短くなる。単純に生産量を増やそうと思えば50年はもっと短くなる。結局は50年はほんの目安に過ぎない。
 で、上の表の採掘可能年数なのだが、トッブのカナダが埋蔵量が世界一ではないのだ。埋蔵量の世界一位は表では7位のサウジアラビアで、約2667億バレル。それで79年の採掘が可能だと言うのだから、多分、年間採掘量がカナダよりはずっと多いのだろう。カナダの採掘年数が世界一なのは、だから、年間採掘量がぐっと少ないからと言う事になる。
 同じ埋蔵量なら、どんどん掘れば早く無くなるし、ちびちびと掘ればいつまでも持つ。それだけの事である。大体、埋蔵量も年間の採掘量も分からないで、189年採掘が可能だとか、51年は大丈夫だと言う事にどれほどの意味があるのか。

 だから私は分からないし誤解を招く、と言うのだ。非常にいい加減な表を見せて何が分かるのだろうか。「知り得」などと題してランキングを発表しているが、ちっとも得にはならない。
 サウジアラビアで考えて2667億バレル÷79年=約33・8億バレル(年間採掘量)。この33・8にカナダの189年を掛ければ、カナダの埋蔵量は6380億バレルにもなってしまう。もちろん、そんな事は無い。世界一はサウジの2667億バレルなのだ。
 一体何が言いたいのかさっばり分からないし、何のためにランキングを見せているのかも分からない。
 この記事はフリーライターが書いているが、この新聞の編集部や校閲はカナダの第一位、189年の数字を見て、驚かなかったのだろう。いとも平然と見た。普通は産油国と言えば中近東である。アメリカも産油国ではあるが、隣国のカナダがここに出て来るとは思いもしなかった。もしも「えっ」と思えば、そんなにも埋蔵量が多いのか、と思うし、そうでなければ、この統計自体に疑問が湧くはずである。

 非常に不信感を持って、すぐ隣の記事を見た。そこには静岡県袋井市のメロン栽培の話が載っている。静岡県は温室メロンの栽培日本一だそうな。そこに、次のような文章がある。
 「昨年はピーク時と比べ出荷量、平均単価とも三割減、売り上げは半減した」
 出荷量と平均単価が3割減なら、売上も3割減かな、と思うのだが、そうではない。7割の7割だから0・7×0・7=0・49になるから、売上半減なのだ。
 ここではきちんと計算が成り立つのに、先の原油の話ではまるで計算が出来ないし、話もいい加減である。どちらにしても今すぐに我々の暮らしに影響する話ではない。しかし原油の話では見出しが「孫子の代は大丈夫?」なのだから、きちんと考えられる話にしなければ駄目だろう。それとも、単に面白い話ならそれで良いのか。
 それに平均50年なら、読者が仮に60歳なら、50年後は孫は50歳以上になる。30歳なら、やっと子供が一人居るくらいだ。50年後に孫は多分20歳くらいだろう。つまり、孫の代までは持たない。そうそう、「孫子」とは「子と孫」でもあり、「子孫」でもある。特に「孫子の代」の言い方はそうだ。子孫の代まではとても無理だろう。
 この統計を使った記事は以上のようにひどく杜撰である。サンデー版だから娯楽だからと手を抜く事は許されない。