自分はまるで水底に溜まっている砂利粒だ、と思う。地上で起こっていることは見えないのに、風が吹いて水が動けばわけもなく揺さぶられる。地面に根を張る術もなく、意思と関わりなく流され続ける。一生そうして、過ごしていく。(以上引用)
『漂砂のうたう』(木内昇著)を読書中。小説の醍醐味を味わえる作品です。
舞台は元号改まったばかりの明治。かつての旗本の次男坊、定九郎は、根津遊郭で客引きとして働く。武士という身分に未練はないが、かといって商人としても職人としても生きられない。10代で飛び出た実家はそれっきり。仮の寝床は、女の家を渡り歩き、酒場や賭場で仮眠の日々……。
眼光鋭い上役の立ち番、龍造兄ぃ、調子がいい嘉吉、そしてポン太、同じく屈託を抱える長州モノの山公……。それぞれのキャラクター造形もいい。小野菊花魁の気風のよさに、惚れ惚れしちゃいます。
木内さんは同作品で、前回の直木賞を受賞された才媛。後半も楽しみ。
しばし憂き世を忘れ、物語の世界に遊びたい方は、ぜひ。
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