【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

遅らせたいから催促をする

2012-05-04 18:08:27 | Weblog

 先日、頼まれた仕事をしていたら、催促の使者がやってきました。私が何をしているかを確かめもせずに催促を始めたので、私は手元を見せながら答えました。「今まさにその仕事をやっている最中ですが、あなたと話をしているから手が止まっています。早く仕事に戻った方が良いですか? それともこの会話にずっと対応して仕事を遅らせる方が良いですか?」
 ちなみにその仕事、本来私の仕事でもなければ緊急の要件でもなかったのですが。しかし、隣の机で別の仕事をしている人の背中が、まるで笑いを堪えているかのように震えていたのは、なぜでしょう?

【ただいま読書中】『明治の郵便・鉄道馬車』篠原宏 著、 雄松堂出版、1987年、3800円

 開国によって横浜に外国人居留地が作られ、江戸(東京)との間にすぐに馬車が走り始めました。本書では、「シティ・オブ・エド」の消印が押された「郵便ラッパを吹きながら馬を走らせる郵便逓送夫の図案」の謎の「サザランド切手」で話が始まります。
 鉄道開業まで、横浜・東京間の馬車は大繁盛でした。日本人ではじめて参入した成駒屋の場合、横浜・日本橋間が4時間で75銭だったそうです(徒歩だと8時間)。外国人経営の馬車屋では片道2ドル(=2円)という料金もありました
 やがて、高崎に集められた生糸を東京に馬車で運ぶ定期便が開業します。悪路で大変な上に、強盗まで出て御者はピストルを携帯したそうです。ただ、こちらも横浜便と同じく、鉄道開業と同時に消えてしまいました。
 東京・宇都宮、東京・白河の馬車会社もありました。12~15時間かかったそうですが、未舗装の道をがらりんがらりん走るのは、馭者も乗客も、苦行だったでしょうね。もちろん甲州街道にも馬車は走っています。
 東京市内に馬車が走り回るようになったのは、明治2~3年のころだそうです。ところが交通事故が続発、東京府は夜間の無灯通行に対して道路に兵士を配置して無灯火の馬車は差し押さえる、と各領事館に通知しました。明治5年には日本人による乗合馬車が登場。さらに明治9年、オムニバス(フランスで始まった二階建て馬車)が導入されました。明治7年に銀座では煉瓦の大通りが開通し、馬車には絶好の道となりました。ただ、銀座以外の狭くてでこぼこの道ではオムニバスは大型過ぎて、すぐに姿を消してしまいました。
 京都・大阪間も、当時広く使われた川船は(減水のときは)時間がやたらかかるため、明治5年には馬車会社が設立されています。しかし、乗馬の外国人でも道の悪さに閉口したというのに、どうやって馬車を走らせていたんでしょうねえ。
 明治15年、東京に鉄道馬車が登場します。写真を見ると、馬がひく都電、といった感じです。ルートは、新橋を起点に、上野行きと浅草行きがありました。乗り心地の良さは、これまでの馬車とは別ものだったでしょう。ずいぶん繁盛しましたが、省線電車の登場で、この鉄道馬車も姿を消します。ただし、地方に拡がっていきました。本書のリストでは、北は北海道から南は佐賀まで、本当に全国に鉄道馬車が走っています。異色なのは碓氷馬車鉄道。明治21年に信越線がほぼ完成しましたが、当時の技術では碓氷峠を越える鉄道は建設できませんでした。そこでその代わりに鉄道馬車です。線路には高さ4センチのギアが刻まれていました。もっとも、乗客輸送だけではなくて鉄道建設にもずいぶん重宝された碓氷の鉄道馬車ですが、明治26年にアプト式鉄道が開業すると、さっさと廃業に追い込まれました。
 チャリオット・コーチ・シャレット・パルーシュ・クールーズ・キャブリオレ・オムニバス……実に様々な「馬車」があることが紹介されます。日本では「馬車」の一語ですが、これは歴史と文化の違いでしょう。そして、馬車による交通が確立すると、郵便も馬車で運ばれるようになりました。
 1948年アメリカでゴールド・ラッシュが始まると、西部の「馬車時代」が到来します。それは輸送の革新の時代であると同時に、駅馬車強盗の時代でもありました。本書では様々な強盗が紹介されます。そしてついに大陸横断馬車が登場。セントルイスからサンフランシスコまで、2795マイルの旅です。最初の乗客は、23日4時間かかってサンフランシスコに無事(?)到着しました。ちなみに料金は、西向きが200ドル、東向きが100ドル(ただし食費は別)だったそうです。
 オーストラリアの馬車についても紹介されますが、あれれ、日本の明治時代はどこに行ったんだろう? それぞれ面白い章ではありますが、明治の日本と欧米の馬車とが別々に扱われていて、本としてのまとまりは欠いてしまいました。ともあれ、日本を扱った前半だけでも読む価値はあると思います。日本にも「馬車時代」があったなんて、皆さん、ご存じでした?



コメントを投稿