【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

換気できるエアコン

2020-06-06 06:53:13 | Weblog

 マスクだ換気だ、と色々生活が難しいことになっています。特にこの夏、熱中症にならないためにはエアコンが重要ですが、エアコンをかけながら換気をするのはエネルギーの大変な無駄になります。
 だったら換気ができるエアコンがもっと普及できないでしょうか。熱交換器を空気の流出入口に仕込むなどして、エネルギー効率を少しでも下げないようにしてエアコン効果と換気を両立させるものです。
 すごく売れるんじゃないかな?

【ただいま読書中】『ペスト&コレラ』パトリック・ドゥヴィル 著、 辻由美 訳、 みすず書房、2014年、3400円(税別)

 ペスト菌の学名(Yersinia pestis)に名前を残したイェルサンの人生を扱った小説です。
 生まれる前に父が死亡したアレクサンドル・イェルサン(父と同名)は、スイスで独仏のバイリンガルとして育ってからドイツのマールブルクで医学を学び、すぐにベルリン、パリと勉強の場を移します。パストゥールが狂犬病ワクチン接種に成功した頃でした。イェルサンはパストゥールに下働きとして安い給料で雇われます。
 ここまで、そしてこれからも、(科学者と冒険家の魂を持つ)イェルサンは一箇所に落ちつかず、世界のあちこちに“冒険”をし続けますが、その傍らには常にカール・ツァイス社製の顕微鏡がありました。「パストゥール団」の若き闘士として、この顕微鏡を武器にイェルサンは戦います。戦う相手は、生命の自然発生説を信じる人たちや聖書を根拠にパストゥールの仕事を否定する人たち、そして、病気。病気に苦しめられるこの世界。その世界では、国同士の対立も鋭く人を苦しめますが、コッホとパストゥールの不和には普仏戦争が関係している、と本書ではさりげなく述べられます(というか、本書では重要なことは実にさりげなく述べられ続けます。まるで詩のように)。
 ジフテリア毒素の研究で科学者として第一人者となり、若くしてイェルサンはパストゥールの“右腕”になります。しかし彼は医学以外にも、鉱業・工業・土木工学・建設などにも魅せられていました。そして、冒険の旅にも。慰留するパストゥールの説得を振り切り、イェルサンは船医としてアジアに旅立ちます。“勤務地”はサイゴン=マニラ航路。寄港して自由時間には、イェルサンは小さな船に乗って川の沿岸地域を探検します。ナトラン(ベトナム南部のニャチャン)の探検報告はパリで好意的に受け取られ、イェルサンはインドシナ総督から給料をもらう探検家・測量士になり、インドシナの高地に分け入ります。それは、フランスのインドシナ活用に新しいヒントを与えました。山賊と戦って胸を槍で貫かれ、それでもなんとかそこから回復した頃、至急電が届きます。香港でペストが発生、至急調査に向かってほしい、と。第一次世界大戦の20年前のことでした。
 第一次世界大戦前の世界と第二次世界大戦直前(〜勃発直後)の世界を、読者は振り子のように行ったり来たりさせられます。その往復運動が、やがて私の心に催眠術をかけたような効果を示し、2つの世界が少しずつ溶け合っていくような気がしてきます。全く違う時代のはずなのに、なぜかシンクロするものがあるのです。
 香港でも「コッホ研究所vsパストゥール研究所」の戦いがありました。イギリスから依頼を受けてやって来た北里柴三郎はコッホ研究所で7年学んでいました。香港政庁のバックアップを受け、北里の方が有利な立場にありました。死体も望むまま手に入ります。しかし、北里は臓器と血液を追究していたのに対し、イェルサンはリンパ節に着目。さらに、北里は体温に調節された培養器を使っていましたが、イェルサンはそのような設備はなく室温で培養していました。ところがペスト菌に適した培養温度は摂氏28度だったのです。かくしてペスト菌の最初の発見者はイェルサンとされ、その名前が学名につけられることになりました。
 「さて、これで任務を果たした」とナトランに引きこもったイェルサンに、こんどは「マダガスカルで胆汁熱を研究せよ」との電報が。そこからパリに行き、ペストの血清療法についての動物実験をてきぱきとかたづけて論文をまとめたら、またアジアへ。馬では成功したペストの血清療法が人間に効くかどうか広東省で実験、成功。この時代にノーベル賞がもしあったら、彼は授賞していたことでしょう(その年に亡くなったノーベルの遺書にこの賞のことが書かれていて、5年後に授賞が始まりました)。
 インドのボンベイでペストが発生。各国は治療団を送り込みます。インドのカースト制度とイェルサンを敵視するイギリス当局によって、イェルサンは行動を束縛されます。ゴタゴタにほとほと疲れてイェルサンはインドを離れ、ナトランに籠もり、「研究」と「生活」を自分の思うがままにおこなう人生を開始します。
 20世紀が始まり、人々は「新しい世紀」に多くの期待をします。イェルサンは農園主としても成功。経済的にも潤います。しかし、第一次世界大戦。そして戦後に「パストゥール団」のメンバーは次々この世を去り、イェルサンは「パストゥール団最後の一人」となります。そして、第二次世界大戦。ベトナムに帰ろうと予約していた飛行艇のあとを、ナチス軍が追います。そして、やっとナトランに落ちついたら、こんどは日本軍がやって来るのです。
 科学者に冒険家の魂が宿っているのは、ちょっと不思議な気がします。ただ、本物の科学者が赴くのは、「(科学の世界の)未踏の領域」です。つまり、科学者と冒険家には同じ素質が必要だ、と言えるでしょう。イェルサンの場合、その「未踏の領域」が科学の世界の外側にまで広がっていただけなのでしょう。ノーベル賞とか世界中の人が知っているとかの「一流の科学者のしるし」は残りませんでしたが、「一流の冒険家の魂」は宿っていた人、のように私には見えます。

 



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