【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

伝言ゲーム

2019-12-06 06:52:58 | Weblog

 殺人事件の報道で私が普通に触れるのは「ニュース」です。そこで事件の概要がわかり、犯人が何を主張しているかは警察発表や裁判での主張で知ることができます。ただそこには何重もフィルターがかけられています。警察発表だったら「警察が発表して良いと判断したもの」だけが発表され、その中からマスコミが「これは報道の価値があると判断したもの」だけが報道されます。ということは、「公式の伝言ゲーム」の結果だけを私たちは「これが真実だ」と信じることを期待されていることになります。
 だからと言って、興味のある人が全員「調書を読ませろ」「容疑者本人にインタビューさせろ」というのは大変な騒ぎになりそう。さて、ではどうしたら私たちは「もっと真実に近いもの」を知ることができるのでしょう?

【ただいま読書中】『平成監獄面会記 ──重大殺人犯7人と1人のリアル』片岡健 著、 笹倉出版社、2019年、1380円(税別)

 「実際にその人たちはどんな人間なのか」という疑問を晴らすために、著者は実際に面会に行きました。実は刑が確定するまでは、本人の承諾があれば親族などではない他人でも面会ができることがあるのだそうです。著者が会ったのは「“愛犬の仇"を討つために元厚生相事務次官を連続襲撃した事件」「相模原で知的障害者施設での大量殺戮事件」「兵庫での2女性バラバラ殺害事件」「加古川7人殺害事件」「石巻3人殺傷事件(裁判員裁判で初めて少年に死刑判決が出た事件)」「関西連続青酸殺人事件(小説「後妻業」との類似が問題になったもの)」「鳥取連続不審死事件」「横浜・深谷親族殺害事件」の8人です。
 まず(「殺人者」「鬼畜」などの)「レッテル」を貼ってから判断するのではなくて、会ってから判断しよう、という態度でのインタビューですが、そこではマスコミでは全然報道されなかった意外な言葉や事実が見つかっています。さらには冤罪の可能性も著者は指摘します(だからタイトルは「7人と1人」です)。ちなみに、コラムの部分の一つに「「真犯人」より「無実の被疑者」の方が自白しやすいというセオリー」が実にわかりやすく書いてあります。「本当にやってないから大丈夫」と高をくくらない方がよさそうです。なにしろこちらは犯罪については素人ですが、取り調べる人間は「自白させること」に関してはプロなんですから。
 さらに本書には恐ろしいことも書いてあります。あとがきなんですが、「悪人だと思える殺人犯がまったくいない」という著者の感想です。もちろんやったことは許せない、だけどその人が心の底からの「悪人」ではないのではないか、ということは……今私たちの周辺に住んでいる人たち、ごく「普通の人」に見える人たちも、もしかしたらこれから何かをしでかす可能性がある、あるいは自分自身にもその可能性がある、ということに? ちょっと恐い結論でした。あまり深く考えずに「殺人犯は極刑だ!」と叫んでいる方が、楽だな。




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