【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

時パン

2011-02-14 18:42:54 | Weblog
行きつけのパン屋では、買った金額に応じてポイントカードにハンコを押してくれます。「1、2、3……」と数えながら押しているおばさんの姿を見ていて思わず「今、何どきだい?」と言いたくなる衝動を抑えるのに、苦労してしまいました。

【ただいま読書中】『ガルガンチュワとパンタグリュエル 第一之書 ガルガンチュワ物語』フランソワ・ラブレー 著、 渡邊一夫 訳、 白水社、1943年(51年5刷)、580圓

昭和18年にどうして“こんな本”が出版できたのでしょう。そのこと自体に私は震えを感じます。
豆知識ですが、著者は1532年にまず「第二之書 パンタグリュエル物語」を発表し2年後にこの「第一之書」を発表しています。
まずは長々と訳者の解説(著者について、著作について、時代背景について)があります。そして「世にも名高い酔漢の諸君、また、いとも貴い梅瘡病みの各々方よ」との呼びかけで作者の序詞は始まりますが、一転、プラトンの『饗宴』『国家』やらホメロスの『イリヤス』『オデュセイヤ』やらが散りばめられ、格調は上がったり下がったり大忙しです。で、やっと物語が始まるのは、なんと113ページから。ここまでで私はもう疲れ切っています。もう何が始まっても驚かないぞ、と。
ガルガンチュワを胎内に宿したガルガメルは牛の臓物料理を鱈腹喰って「肛門が抜け出るほどの」下痢となってしまいます。そして、その最中に産気づいてしまうという…… で、生まれた子供は「のみたーい! のみたーい! のみたーい!」と叫びます。
ガルガンチュワは巨人族の一員ですので、何でもスケールが大きくなります。飲食の量や衣服に必要な布の量など次々天文学的な数字が登場して読者の度肝を抜いてくれます。まあ「でっかいことはいいことだ」ですが。(一例:街の見物をしているガルガンチュワを見物しようと人が集まったので、ちょっと巫山戯て金色の雨を降らしたら(立小便をしたら)溺れ死んだものが弐拾六萬四百拾八人だった、とか。ついでですが「巫山戯る(par rys)」からその街は「パリ」と名付けられたのだそうです)
ガルガンチュワ5歳のときには父親のグラングゥジエと「尻を拭く妙法」についての熱い会話をします。さまざまなものでお尻を拭いての実験の末、最後にガルガンチュワが得た結論は……
やがて戦争が起きます。その原因は煎餅数枚。なんともあきれますな。黒死病が流行している中でも、軍勢は侵攻します。やがてピクロコル王の軍勢はグラングゥジエの領内に侵入してきます。父は息子をパリから呼び寄せます。長々と平和交渉が行なわれますが、その途中に登場する地図(ピクロコル王世界制覇夢想図)が笑えます。全ヨーロッパから北アフリカにアラビア、グリーンランドまで、ということはたぶん当時の人たちにとっての「全世界」を一地方領主が征服しようと言うのですから。
さて、ガルガンチュワは出陣しますが、戦いの前に乗っていた牝馬が放尿したらそれが大洪水となってヴェード浅瀬にいた敵の守備隊を全滅させてしまいます。ガルガンチュワは大木で城壁をぶん殴り、城を一つ潰してしまいます。なおその時敵が撃ちまくった火縄銃や大砲の弾は、ガルガンチュワの髪の毛の中で捕らえられ、後刻髪の毛を櫛ですいたらまるで虱のようにバラバラバラと。
男女が共同生活をする修道院(結婚も還俗も自由)なんて“過激”なものも登場します。そこでの決まりは「欲するところを行へ」! 壮大なほら話の中に、著者は権力(王や教会)に対する皮肉をしっかり混ぜています。「自由な精神」は、時代を超えています。




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